第6話 本当は

 夢枕さんは、サキュバスだ。しかし、どうやら種族の力を上手くコントロールできないらしい。それどころか、その特異な力だけではなく、サキュバスという種族であることそのものにコンプレックスさえ抱いているようなのだ。でもほんの少しだけ、僕にもその気持ちがわかる気がした。


「僕はヒューマンだからさ、正直、ほかの種族のみんながどんな悩みを抱えていて、どんなふうに力を使いたいかとか、全然わからないんだよね」


 夢枕さんは眼差しを僕に向けてくれている。先程、僕が墓穴を掘った件はひとまずスルーしてくれるようなので、そのまま話を続けてみることにする。


「力を持ってる種族を羨ましいって思ったこと、何度もあるんだ。ほら、ヒューマンには変わった力なんて何も持ってないし。それでなんとなく、疎外感?みたいなものを勝手に感じたりして」

「そんなことは……」

「でもさ!」


 夢枕さんの、きっと優しいであろう気遣いの言葉を遮る。今はきっと、僕が夢枕さんを気遣うターンだから。

 

「でも……夢枕さんの話を聞いて、ちょっとだけ考えが変わった……かもしれないんだよね」


 少しポカンとした顔になったが、夢枕さんは僕の次の言葉を待っている。


「力を持っていないことが、僕たちヒューマンのなのかなって。夢枕さんを見てたらなんとなくそう思えてきて。夢枕さんが種族の力を望んで持っているわけじゃないとしたら、それって僕の悩んでいたことと同じだなって。そう思った」


 理想と現実が剥離するなんてことは、誰にでも起き得るんだ。種族なんて関係ない。


「だから、僕自身に力がないことを卑下してるのは、ちょっと違うかなって。僕も夢枕さんも、まずはそういうネガティブな気持ちを上手くコントロールすることが、一番大事なのかもしれないね。あははは……」

「気持ちを……コントロール……?」

「うん。暗い顔してたって意味ないから、とりあえず笑おうよって」


 僕の渇いた笑いと苦笑いとは裏腹に、夢枕の瞳の輝きが少し増した気がする。すると、彼女は急に立ち上がり、声を挙げた。


「阿野日くん!」

「は、はい!?」

「私、本当は……!私……本当は……!」


 振り絞るように声を出す夢枕さん。あれ?この流れってまさか、僕に春がやってくるヤツじゃないか?急展開だが、今どきはこういうパターンから始まる物語もある。僕は生唾をゴクリと思い切り飲み込んだ。夢枕さんに聞こえてしまったかもしれないなどと心配しつつ、夢枕さんの強い言葉を浴びる。


「本当は、みんなと……青春がしたい!」


 ……うーん、なるほど!


「夢枕さんならできるよ!絶対に!現に、ほら、こうして僕と普通に喋ってるし!」

「だから、私と、そ、その、お、お友達になってくれませんか!?」

「もちろ……はいぃ?」

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シャイなサキュバスちゃんのアオハル奮闘記 サンサンカイオー @SunsunKaioh

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