虹消ゆるまで

夏野けい

虹消ゆるまで

返すべき本包みたり梅雨に入る


額の花雨でも灯りつけぬ居間


こそげとる黴の一瞬濃く臭ふ


足元を去るなにものか木下闇


鈴蘭やひかりのはたは暗くあり


紫陽花のまるく光れる樹陰かな


藻の花の白さやうみにそゝぐ川


虹鱒の手のなかになほ跳ねてをり


われの背を今日咲き越ゆる立葵


赤き付け爪でサルビア吸つてゐる


向日葵の鉢買ふ雨の植物園


睡蓮のつ揺らすいをの腹


歯を磨くあひだ鏡のふちに蜘蛛


昼中ひるなかをどこも目指さぬやうな蟻


鯵叩く漁師やめても父は父


百足虫めのまへに床にて目覚めたり


嫌つても嫌つても骨まで暑し


窓を閉めかけて遠雷しばし聞く


夕立の駅の出口の迷ひかな


虹消ゆるまでを佇む幾人か

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虹消ゆるまで 夏野けい @ginkgoBiloba

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