盗賊と旅人と

ドルドは旅人の早業に目を疑いながらも、どうにかまだ頭は回っていた。

たしかに旅人は強いらしいが、やられたのは血気盛んで連携も取れないような馬鹿3人。

残るメンバーで連携してかかれば、勝てない相手では無いと。

ドルドは、部下に対して一斉に向かうようにと号令をかけた。


「数の有利を活かすぞ。そこのバカ3人みたいにならねえよう、反撃する隙もなく攻撃を畳み掛けろ!」


盗賊団メンバーの、おう!という返事が返ってくる。

流石に歴戦の盗賊団だけあって、旅人の早業に対して恐怖を抱いている者は1人もいない。

そして、いざ全員で攻撃を仕掛けるという時だった。


「待て!」


レーダが制止をかけた。


「何人でかかろうが、たぶん無駄だよ。顔見りゃ分かる。フードに隠れちゃいるが、口元がずっとニヤついてやがる。いやらしい」


旅人は、どこかショックを受けたような小さな声で「いやらしい……」と繰り返した。

そんな旅人の様子にも気付かずレーダは話を続ける。


「余裕ぶってんじゃない。たぶん、余裕なんだ。実際親父だってそうだろ。雑兵が何人いようが、負けはしない」


娘からの過剰な信頼に、父であるドルドはたじろいだがなんとか


「お、おう」


と返した。

雑兵呼ばわりされた盗賊団メンバー側としては反論してやりたいものがあるが、発言の主がレーダだ。

盗賊団内において、誰もが認める優れた武勇の持ち主。

模擬戦ではあるが、10人を相手にして勝利した事さえある。

そう、レーダ自身はあまりそう思ってはいないが、レーダの実力は父であるドルドをとっくに上回っているのだ。


「親父、あたしにやらせてくれ。というよりも、この中じゃあたしが1番適任だ」


レーダはドルドに言うだけ言うと、返事を待たずに剣を抜いて旅人に向かう。

特に流派などがあるわけでもない、実戦の中で鍛え上げられたレーダの構えを見て旅人は


「なるほど。なかなかに……」


とだけ呟いた。

依然として、旅人の口元にはレーダが言うところのがある。

そして、それが気に食わないレーダは、まず初めに顔を狙った。

素早い一突き。


「おおっと。鋭い」

「よく言うよ。それにしても――」


旅人は、レーダの突きをギリギリのところで躱す。

その時、旅人の口元以外を覆っていたフードが取れた。フードの下から出てきた顔は、この辺りでは少し珍しい金髪碧眼の美男子。

レーダが突きから繋げるように攻撃を繰り出す。


「思ったよりもいい顔立ちしてんじゃん。なんでフードなんかしてんだか!」

「事情なんてものは人それぞれさ。例えばよく言うだろう?日差しは肌の天敵だって」

「どこの深窓の令嬢だいあんたは!」


レーダが攻撃を繰り返し、旅人がそれを避ける。

その間も2人はまるで、友人同士のような軽口をたたきあっているがレーダの言葉からはどこか力みが感じられるのに対して、旅人はまだ余裕を残している。

しかし、腐ってもレーダは盗賊。

使う剣技も実戦の中で育ったものであって、そこにルールはない。


「ようやく、剣で防いだね」


そう言ったレーダの手には、2本目の武器、短剣がある。もちろん1本目の剣もレーダは持ったまま。

旅人は片手で持った剣でレーダの短剣を防御し、その後隙を狙う様に繰り出されたもう一方の剣の一撃を下がって躱す。


「隠し武器、ってやつかな。それにしても、すっかり意識の外から繰り出してくるじゃないか」

「だったら、防がないで欲しいもんなんだけどね」

「そうはいかないさ。ところで、先程君は私の顔を良い顔と言ってくれたが、その顔に免じて君の父君と交渉の席を用意してくれたりはしないかな」

「冗談は顔だけにしときな。そんな事はしないよ。だいたい、あんたもまあまあだけどうちの弟の方がよっぽど男前だね」

「それはそれは」


旅人はレーダの父、ドルドをチラリと見てから言った。


「なるほど。その弟君とやらは熊に似ていそうだ」


一通り軽口を叩き合い、その間に呼吸を整えたレーダは再び旅人に向けて駆け出す。

それに対して旅人は、どういう訳か鞘に剣をしまい始める。

疑問を覚えながらも、だからと言って止まる理由も無い。

レーダは気にせず旅人を殺してしまおうとした、その時。


「レーダ、止まれ!」


ドルドがレーダを制止した。

その声を受けてレーダは咄嗟に後ろに下がる。

依然として旅人は剣を抜いていない。

何故父は自分を止めたのか。

怒りを半分に父の方を振り向くとそこには


「動かないでください皆さん。貴方たちの頭を殺されたくなければ」


何者かに背後を取られ、片刃の短刀を首にかけられている父、ドルドの姿があった。

旅人は、そんなドルドの背後の何者かに親しげに話しかける。


「遅いよロルマ。それで、見つかったのかい?」

「ええ、見つけました。人数は女子供もあわせて300といったところでしょうか」

「やっぱり規模が大きいな。さて」


旅人は何者かとの話を終えると、再びドルドに、そしてレーダに話しかけた。


「交渉を、受け付けて貰えるね。大丈夫、酷いようにはしないなら」

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旅人よ風雲乱れさせ 綾成望 @ayanarinozomu

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