弟橘媛命の悲劇
俺の名前は
「って、そんな場合じゃねぇ!!」
俺は今父上から命ぜられて、東にいる蝦夷(不埒なやつら)の討伐に出かけている。そんななか、
「お御子様! このままでは、船が転覆してしまうます!」
「うるさい! 我々は進むしかないのだ!」
父上を裏切ったら俺は処刑されてしまう、だから進むしかない! そう意気揚々と進むのであるが、天候は荒れに荒れており今にも沈みそうだ。
そんななか、俺の世話をしてる老婆が呟く。
「……祟じゃ」
「祟り? バカを言っているんじゃない、俺は
と、老婆に反論をしていると。
「祟りだ……」
「祟りに違いない……」
船員や従者などがざわつきはじめ、不安になっていく。
そのつぶやきは、だんだんと大きくなっていき、ついに誰かが「祟りだ!」と大きく声を出した。
いよいよ、俺の怒りが頂点に達し静めるために剣を抜こうとした時のことである。
「小碓様!」
俺の妻である、
「私が! 私が生贄になって海の神の怒りを鎮めてみせます!」
「馬鹿ッ! そんな事をしても……」
妻の愚行を戒めようとした瞬間、頭上にまるで怒ったかのような雷が鳴る。
「……それでは、さらばです、小碓様」
雷に漠然としいた瞬間、弟橘媛は前へと海へ乗り出していく。だが、俺の足はなぜか氷のように固まってしまい、前へ動きだす事はできない。
「まてっ……畜生ーーッ」
海へ乗り出した弟橘媛は、丁度荒波に包まれてしまい一瞬にして姿を消してしまった。
弟橘媛が死んでから一週間経った。
彼女が沈んだら、一瞬にして海は穏やかになり無事に俺たちは対岸へと渡る事ができた。
だが、最愛の妻である弟橘媛を失ってしまったのだ、それい以降食事は喉を通らず、ただ漠然と海を眺めているだけだ。
浜辺の波打ち際を見ていると、何かが埋まっているのが見える。
ふと、気になり掘り返してみると、そこには。
「……弟橘媛の櫛じゃないか」
彼女の、妻の、櫛を見つけそっと優しく抱きしめるかのように握りしめる他なかった。
冬月の短編集 冬月鐵男 @huyutukiakira
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