別れ話はスーパー銭湯で

西しまこ

第1話

「ねえ、それでコイツと別れて欲しいだけど」


 席について飲み物を注文して、しばらくしたらその男はそう口火を切った。

「あ? なんでお前にそんなこと言われなくちゃ駄目なんだよ。そもそもお前、誰だよ」

 悠馬は低い声で言い、男を睨めつけた。

「俺はコイツの元彼だよ」

 男がそう言うと、悠馬の隣、男の前に座っていた梨花が男に向かって「壮介」と言った。梨花と壮介の視線の絡み合う視線を見て、悠馬が怒気を込めて言った。

「お前、浮気していたのか!」

「違うよ。たんに悠馬と別れたいだけだよ」

「だから、なんでそこに元彼連れてくんだよ!」

「えー、だってえ」

「だってえ、じゃねーよ! オレたち、この前婚約したばかりだろ? ずっといっしょだよ、永遠に好きだよって言ったのは、お前じゃないか」

「だけどお。ほら、永遠なんて、ないじゃない? あれはその場の勢いというか」


「ご注文の品、お待たせいたしましたー」

 そこへ飲み物を持ったウエイトレスが来て、話が中断された。皆、それぞれ自分が頼んだものに口をつける。


「お前さ」と、壮介はアイスコーヒーをかちゃかちゃさせながら、言った。「婚約したばかりって言っても、結婚したわけじゃないから、おとなしく別れればいいんだよ」

「だから、お前は関係ないだろ?」

「いや、ある。元彼だからな」と言って、壮介は梨花に目配せをした。梨花は目配せを返す。

「梨花。お前、こいつとやっただろ!」悠馬は声を荒げた。

「えー、だってぇ。相談していたら、優しくしてくれたんだもん」

「それ、浮気じゃねーか!」

 そのとき、壮介がずずっとアイスコーヒーを音を立てて飲み干した。そして、「だから、お前とは別れるんだよ」と言った。


「ずっといっしょだよ、永遠に好きだよって言ったのに……」

 悠馬は下を向いて涙をこぼした。

「そういうところがうざいんだよ」

 壮介はそう言うと、アイスコーヒーのコップを乱暴に置き、梨花の手を取った。

「じゃ、そういうことで。梨花、行くぞ」

「え?」と梨花。

「え?」と壮介。

「あたし、悠馬と別れたいだけで、壮介とつきあいたいわけじゃ、ないんだけど」

「え? ……ええ?」


「あたし、しばらく、男はいらない。別れ話につきあってくれて、ありがと、壮介。あたし、もう一回お風呂入って、それから漫画読む! せっかく充実した内容のスーパー銭湯に来たんだから、楽しまなくちゃ! じゃあね、ばいばい! ふたりとも!」




   了



一話完結です。

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☆これまでのショートショート☆

◎ショートショート(1)

https://kakuyomu.jp/users/nishi-shima/collections/16817330650143716000

◎ショートショート(2)

https://kakuyomu.jp/users/nishi-shima/collections/16817330655210643549

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