第12話 小悪魔系人気インフルエンサー②
「へへっへへっ」
できるだけ我慢してるけど声が漏れちゃう。
今撮ってるコラボ動画は鏡越しでお互い相手の目を見て、先に照れたほうが負けというシンプルなもの。
他人とのコラボが初めてなのか、りくちゃんは真面目にやってくれてるけど。さっきから私が秒で照れて、勝負になってない。
「よし。照れたほうが負けじゃなくて、照れなかった方が負けにせえへん?」
「いいですけど……。それ、ねねさんが絶対勝ちませんか?」
「む。最近勢いを取り戻した人の意見、結構鋭いやん」
「実は勢いを取り戻したの、一緒に来た九条さんのおかげなんです。俺は別に何も……」
「なっ!!」
コラボを申し出たのはりくちゃんと会いたかったのもあるけど、本命は違う。
うちのバズらせる力を使って恩を売り、今後先輩として色々教えるという口実で長期的に何度も会うつもりだった。
さっき睨みながらスタジオから出た九条? とか言う人が教えられるなら、うちは必要ない女になっちゃう。
「あぁもうっ」
どうすればいいの……。
本命がなくなった今。ある程度は自制するつもりだったけど、手段を選んでいたら先を越される。
なんなの初恋の人って。ずるすぎるでしょ。
「あの……この前九条さんから学んで、ねねさんにとっては当たり前のことかもしれませんが。自分らしい動画なら、なんでも良いと思いますよ」
今のは別に動画の事じゃなかったけど……そっか。
自分らしい、か。やっぱりうちと言ったら小悪魔系だよね。
「教えてくれてありがとぉーな。りくちゃんのおかげで元気出てきたぞー!」
うちは気合を入れ直したふりをして、地面に置いてある荷物の隙間に隠しカメラを設置した。
私が小悪魔系と言われ始めたは際どい衣装を着たのが大きな理由。でも実はそれだけじゃない。
『小悪魔系女子に迫られるドッキリ』と言う、コラボ相手へのドッキリシリーズ。
その人気シリーズのおかげでもある。
もうあのシリーズは自分で見てて恥ずかしくなるから全部削除しちゃったんだけど……。
覚悟を決める他ない。
うちとりくちゃんの絡みを求めるリスナーが増えれば、きっとまた会える。それも高頻度で。
「今気づいたんやけど、りくちゃんって筋肉質な体してるんやねぇ〜」
とろんとした顔で上目遣いをし、さり気なくボディータッチ。
今までこのドッキリをかけてきた人たちは皆、この程度では一切動揺しない。
まずは様子が変わったと悟られないようにしないと。
「き、鍛えてますので」
あれぇ?
「ふぅーん鍛えてるんや。えらいなぁ〜」
「いやいや。それほどでも……」
目をキョロキョロ泳がせ、少し私から距離を取るように足を動かしてきた。
……これは間違いない。小悪魔系の私に動揺してる。
りくちゃんって動画上はカッコよくて、イケメンで、なんでもリードしてくれる年上の人って感じだけど。
意外と初心で可愛い。
ファンがこんなの見たら失神しちゃうよ。
もうすでに撮れ高は十分。だけど、初恋の人に対抗するにはまだ足りない。
「りくちゃん」
ここから先は動画にするつもりはない。
「な、に?」
「うちさ。今まで色んな人とコラボしてきたんやけど、りくちゃんが一番好きや」
「…………ありがとうございます」
多分これ、恋愛的に好きって意味で捉えてないよね。
「ねぇ、本気だよ」
「っ」
「今日会ってみて確信したの。私、りくちゃんのことが好き。付き合ってほしい」
一秒がものすごく長く感じる。
あと心臓の音がうるさい。
私の中ではボディータッチをするだけで動揺する人なんだから、いけると思ってた。
だから人生で初めての告白もした。
でも……。
「…………」
自信満々な私の言葉に反応した顔は、申し訳無さそうだった。
「あの、ですね。付き合ってほしいっていう好意はすごく嬉しいんですけど。オフは『りくちゃん』じゃないんです」
「そんなの私もそうだよ。ほら、さっきまでのエセ関西弁が抜けてるでしょ? ……無理強いはしないけど、お互いインターネットじゃ自分を偽ってるから今くらいは素の姿を見てみたいな」
「幻滅しないでくださいね」
別人のような姿をして撮った動画がバズったのをきっかけに初恋の人、小悪魔系人気インフルエンサー、100万人に1人の美少女モデルに迫られるようになった件 でずな @Dezuna
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