第11話 小悪魔系人気インフルエンサー①
ねねさんに指定された場所は、壁が鏡になっているスタジオ。
今日撮る動画はねねさんの希望で完全に任せていので、何をすれば良いのかよくわからない。
事前に『元はダンス練習をするスタジオだった』という事と、『多分激しくなる』とだけ聞かされていたから、一応ジャージで来たけども。
果たしてこれで良かったのだろうか?
扉の隙間からスタジオの中にいるねねさんが見えるが、ふりふりして肩や太ももなど露出が高い服を着てる。
……あぁ。九条さんに格好を指摘されたとき、着替えてくれば良かった。
「もしかして五十嵐くん、行くの嫌になったの? 行かなくても誰も責めないから安心して」
耳元で囁かれ一瞬心を持っていかれたが、なんとか踏ん張れた。
このスタジオに向かう途中、隙あらば何度もこうやって囁かれてるけど全然慣れない。
「ダメだダメだ」
そろそろ集合予定時間になるし、いい加減スタジオに入らないと。
「お、お疲れ様でぇーす」
「りくちゃんだぁ〜!」
扉を開けた瞬間。
ねねさんが両手を広げ、勢い良く俺に抱きつこうとしてきた。
「!?」
びっくりして反射的に避けようとしたが体の重心がずれ、結果的に押し倒される形に。
「うへへうへへ。本物だ本物だ本物だっ!」
ねねさんは俺の体を跨り、息を荒らげ始めた。
「あ、あのぉー」
「いい匂いしゅる……」
「!?」
俺の首元に顔を寄せ、くんくん匂いを嗅いでる。
いい匂いだったのは良かったけど、さっきからなんでねねさんはこんなことしてくるんだ?
明らかに様子がおかしい。
「はぁはぁはぁはぁ」
俺の勘違いかもしれないけど、今のねねさんは欲情してるように見える。
「いい加減にして!」
迫りくる顔に抵抗しながら様子をうかがっていたが、ものすごく不機嫌そうな九条さんによりねねさんが引き剥がされた。
事故が起きて変なことになったが、これでようやくスタジオで挨拶ができる。
「コラボ依頼ありがとうございます。今日はよろしくお願いします」
「あんたなんなん? うちはりくちゃんとイチャイチャラブラブしてたんやけど」
礼儀正しく挨拶したが無視され、ねねさんの会話の矛先は俺の横に立っている九条さんに向けられた。
「あれのどこがイチャイチャラブラブなんですか。完全に襲おうとしてましたよね?」
「……なっ! それの何が悪いんや!」
すごい爆弾発言聞こえたけど聞き間違いか?
「りくちゃんが抵抗してたのに襲うのは悪いことです。それくらい高校生でもわかりますよね」
「う、うるさい! さっきも聞いたけどあんたなんなん!」
「……初恋の人です。そう言ったら分かりますか?」
「はぁ!? あんたがあの気分悪いDM送ってきたやつ!?」
どんなDMを送ったのかものすごく気になるところだが。このままじゃ埒が明かない。
今日は二人が言い合いするところを見に来たんじゃなくて、コラボをするために来たんだ。
「ふ、二人とも! 言い合いはそこら辺にしといて、そろそろコラボの話に移らない?」
「はぁりくちゃん。まだ呼ばれたのが本当にコラボをするためだって思ってるの?」
「えっ?」
言ってる意味がよくわからない。
「ねねはコラボっていう口実の元会って、りくちゃんのことを襲うつもりだったんだよ。さっき私が助けなかったらどうなってたか、想像してみて?」
「…………助けてくれてありがとう」
「どういたしまして」
「推理していい感じになってるところ悪いんやけど、普通にコラボ動画撮るから初恋の人はスタジオから出てってくれへん?」
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