幼なじみとスーパー銭湯へ

西しまこ

第1話

「やべえ、サキ、あんなにかわいかったっけ?」

 陸がそう言ったので、おれはあいまいに頷いた。



 おれと陸、それからサキは幼なじみだ。家が近所で、親同士も仲が良かったので小学校中学校といっしょに学校へ通い、休日もいっしょにいることも多かった。高校までいっしょの学校に進学したが、さすがに高校はサキとは別々に通っていた。おれたちはおれたちで気になる子がいたし、サキにも好きな人がいたみたいだった。大学生になって完全にバラバラになって、ほとんど会うこともなかったのだけど、このあいだ、サキとショッピングモールでばったり会ったんだ。


 サキはすごくきれいになっていた。高校生のときも薄くメイクしていたけれど、メイクはさらに洗練されてサキを引き立てるものになっていて、服装も華やかになっていた。

「サキ、久しぶりだね」

「ほんと! しゅーちゃん、元気だった?」

「あ、うん。サキは?」

「元気だよー」と言って笑うサキは子どもっぽさが抜けて、ほんとうにきれいだった。

「陸は? 陸も元気?」

「変わらないよ。いまは推し活に忙しいらしい。推し活につきあって、今度の土曜、スーパー銭湯ユバーバに行くんだ」

「ユバーバ! って、最近出来た、あの、漫画が充実していて、WiFiもある?」

「そうそれ。陸の好きなアニメとコラボイベしているんだって」

「へえ! あたしも行きたい! しゅーちゃん、車持ってるでしょ? 車で行くんだよね? あたしも連れてって!」



 そんなわけで、おれたちはスーパー銭湯にいる。


 お風呂に入ったあと、待ち合わせていっしょに食事をすることになっていて、そこに現れたサキを見て、陸はさらに興奮して「すっぴんもかわいい、やべえ」とか「メイクした顔とのギャップに萌える」とかぶつぶつと言っていた。

 いっしょに席について食事の注文が終わったあと、サキは「ちょっとトイレ行ってくる」と席を外した。そのとき、ふわりといい香りがした。お風呂上がりのなんとも言えない温かい空気も漂っていて、おれはくらくらした。


「俺、告白しようかな?」

 陸はサキの後ろ姿を見ながら突然言った。

「え?」

「だって、サキ、めちゃくちゃいいじゃん。彼氏いるか、知ってる?」

「彼氏いたら、こんなとこ、いっしょに来ないんじゃない?」

「だよなっ。どうやって告白しようかな。あ! りおちゃんのグッズ、あげようかな?」

 りおちゃん、とは陸の推しているアニメのキャラのことである。


「……要らないんじゃない?」

「いやいや、りおちゃんかわいいし! 女子にも人気あるし! りおちゃんのポストカードと、りおちゃんシールと、それから、キーホルダーもあるぞ。クリアファイルは必須だね! ハンドタオルもつけようかな。うん、つけよう! えーと、コースターと缶バッチと、あっ、アクリルスタンドと、タペストリーも! ええい、思い切って、バスタオルも! 全部で十個! りおちゃん豪華プレゼント! どうだっ」

「……あげてみたら?」

 おれは脱力して言った。

「ああでもなあ。俺のりおちゃん……かわいいんだよねえ……りおちゃん……」

 そこへサキが戻って来るのが見えた。

「サキ……! いいなあ。うっわ、やべえ」

 やばいのはお前だ。




   了



一話完結です。

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「全ては妄想の産物です」

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