第10話 結末3
「んぁ?…朝か」
気付いたら朝だった。
結局、夜中は動きが無かった。
各宿泊施設からの情報提供は迅速だ。
近隣の村がダムに沈む際に、センタースイッチを役場に設置してメインスイッチを配下設定した建物に設置してある。
それは宿泊施設も対応している。
イントラネットの構築をダム建設のドサクサに紛れて実行した、ウチの父は凄いと思う。
母は、度々(わざと出した)発砲音が聞こえていたようで…熟睡は出来なかった様子。
若干のクマが目の下に浮かんでいた。
「昨夜から獣が多くてさ。俺も寝れなかったよ」
俺は適当な会話を始めた。
「あら、困ったわね。猪かしら?」
「狐や狸だね」
「いやだ、もう。鉄砲じゃ狙えないでしょ」
確かに的が小さ過ぎたり動きが早いと、撃ち漏らしが増えるけど…そんな理由で銃を使わないのでは無くて、鳥獣法が前提としてあるんだよ。
まあ母に言っても仕方ない話ではあるな。
母の作った朝食を平らげた俺は往診に行く。
産業動物獣医師。
その仕事は多岐に渡る。
畜産業界における動物の健康管理や疾病の予防・治療、飼料・飼養管理のアドバイスに伝染病の防止対策・対応も求められる。
オマケに繁殖管理のアドバイスや衛生管理の指導もあって、健康診断・検査…人と動物の関係におけるアドバイス…キリがない。
その合間に実父の様子を見る。
浅く短い呼吸だった。
間違いなく命の灯火は僅かだと感じさせられる。
「奴等に協力を仰ぐか」
不意に頬を水滴が当たった…雨だ。
例え高く無い山でも天候は読めない。
俺にとって恵みの雨となるだろうか?
翌日未明、実父は口を開けたまま…まるで笑っていたような表情で、山の麓に倒れていたのを2人組の男性達に発見された。
獣に四肢を齧られた悲惨な状態で発見されたが、死因は過剰摂取した薬物による物と断定された。
雨の影響で証拠になるような物証は残っていなかった。
引き攣るような顔では無く、待ち望んだモノにやっと出逢えたような…穏やかな笑顔であったと言う。
夕暮れ時、雨の降る中…山の入り口にある木々に男たちが雨宿りをしていた。
その中の一人が、自分が見つけた死体のことを話し始めた。
「ホントに死体があったんだって!」
話が進むと、その死体が自分達と拘置所で一緒に居た男だと明らかになる。
じゃあ犯人は誰か?ということになり、怪しいのはお前だ!とか、言い出したのはお前じゃないか!…などと争う寸前になった。
「何を揉めている。ここは俺の土地だ」
そう言って現れたのはこの山の地主だと自称する青年だった。
本当かどうか、この場で調べようが無い。
だが、土地勘はあるようで死体があったと言う場所を具体的な説明で、それを言い出した男が唸った。
しかし、最終的に死体があった場所から近くに民家は無く、彼の証言と現場の状況が一致しなかった。
途中から青年が呼んだ駐在が現れ、不法侵入した2人を連行した…2人は獣の罠にハマったのか、足を引き摺りながら歩いていた。
結局のところ、真相は謎のままとなる。
だが、その噂は狭い街に瞬く間に広がった。
ある教団幹部は騒ぎ立てた2人を破門とし、教団とは一切関係ないとした。
公安は騒ぎを起こしたその2人を内偵。
だが、その2人はすぐに足取りが消えてしまった。
一方警察は事件の真相を探るために、被害者と犯人の足取り…そして、街に訪れたネットで集められた連中を探した。
唯一の情報元の地元の駐在は頼り無い記憶で、ネットで集まった連中も潮が引くように消えていた。
事故で1人死亡した事件はあっという間に風化していった。
俺は実父が死を覚悟しながらも、妻との愛を語り出したのを聞いていた。
実父が生きるために犯罪に手を染めた過去や性的欲望を処理した話は…ひたすら不快だった。
母が父の親族に
『ほら、僕は八重を護ったんだ…僕は間違っていないんだ…』
この物語の結末は、真相がわからぬまま終わるのだ。
今日も銃声が山に響く。
「どうだったの?イノシシだった?」
帰って来た俺に、心配げに声を掛けて来る母…母屋の玄関のすぐ脇で座っているのが日中の定位置だ。
「イノシシだったけど、残念ながら取り逃したよ。自力で罠から抜け出しやがった。今度は檻を仕掛けにしようか検討中」
「無理はしないでね?」
俺は頷きながら銃を専用ロッカーに入れて鍵を閉める。
母は記憶を思い起こす事無く、相変わらず旅に出たと思っている父を待っている。
人間の本性と真実が曖昧なことを自覚した。
¿後日談もあるんですが、作者の語彙力不足と構成力の無さが仇となり…時間かかると思います。
理想的に見える母子は穢れている 火猫 @kiraralove
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