池田屋事件-3
※
高杉晋作と桂小五郎は既に、淀川を下る船に乗り込んでいた。
その二人を道案内している色黒の大男は、かつて沖田総司に一目惚れした、あの土佐浪人だった。
「いやあ坂本くん、きみには救われたよ。本来、逃走経路の確保は桂くんの仕事なのだがねえ~。今回の彼は、沖田総司にすっかり夢中でねえ」
「……ああ。幾松。総司。幾松。総司。駄目だ、どちらも僕には選べない! いったいどうすればいいのだ……」
「ずっとこの調子なのさ。桂くんはいったい、こんな男だったかね? 沖田くんと出会ってから、なにか変わってしまったねえ。お得意の逃げ道の確保作業すら放棄するとは」
「まあまあ、高杉さん。今回は新選組が池田屋を完全包囲しつつあった土壇場で、山南敬助と接触して逃げ道を設けてもらう方向でわしが話をつけておいたきに。山南さんとは、江戸でともに北辰一刀流を学んだ同門じゃき。そこに高杉さんが悠然と顔を出してくれたおかげで、一気に三者の間で話がまとまったがじゃ」
坂本龍馬は、江戸で北辰一刀流の剣を修行し、流派を代表する最強剣士の一人として当時既に有名人だった。彼の顔の広さは、江戸での修業時代に培われたものだ。
今では長州を仕切っている桂小五郎と知り合ったのも、江戸での他流試合で竹刀を取って戦ったのがきっかけである。
当時の桂小五郎は、神道無念流の達人・神童として著名であり、試合では二本を取って坂本龍馬にからくも勝利したが、「真剣なら斬られていた。二度とあんな恐ろしい男とはやりたくない。私は今後、絶対に真剣を抜かないと決めた」と桂が泣きを入れたほどに拮抗した激戦だった――。
山南敬助は、後に試衛館に居座ったくらいだから、学問と知識では秀でていても北辰一刀流の剣士としては龍馬より格下ではあったが、誰とでも仲良くなる陽キャの龍馬とは時々飲み食いする間柄だったのだ。
「いやあ。逃げ道を探そうと表に出てみたら坂本くんがいたので驚いたよ。あの場では時間がなくて問えなかったが、坂本くん。伊東甲子太郎は結局、薩長同盟を取り付けてはいなかったのかね」
「おう、そうじゃ。黒頭巾の正体が妙に気になって配下に潜り込んぢょった時にも、そがいな話は一切聞いちょらん。京に戻って来た西郷さんのところには、わしも勝先生の書状を携えて顔を出したが、今はまだ長州と同盟する時期ではない、幕府と訣別する機会を間違えては薩摩が滅ぶの一点張りじゃったにゃあ」
「やはりそうか。僕としたことが、長州の窮状に焦って一杯食わされたよ。思えばあの薩摩が、正体の怪しい他国の浪人を重用するはずもなかったなぁ。薩摩にも長州にも幕府にも顔が効く浪人はきみくらいだよ、坂本くん」
「肝心の新選組には顔が効きそうにないがのう。あの土方歳三は、鬼のように恐ろしいぜよ。なかなか沖田ちゃんに近寄れんき」
「しかし坂本くん、よく京に来てくれたなぁ。僕ぁ、てっきり神戸で黒船に乗っているとばかり思っていた!」
「土佐以来の仲間がこっそり海軍塾を抜けて池田屋に行ったと知って、どうにも悪い予感がして上洛してみたら、この有様じゃった――というのは建前で、実は沖田総司ちゃんが恋しくて口実を作って京に舞い戻ってしもうただけじゃ。黒頭巾伊東のその後の動きも気になっちょったしの。いやあ、高杉さんや沖田総司ちゃんたちの危機に間に合ってよかったぜよ。天がわしに、沖田ちゃんを救えと告げちょったんじゃにゃあ」
「そんな理由なのか……だが、伊東は詐欺師だったのだな! 薩長同盟覚書の密書まであったが、あれも偽造か。許せん! 沖田くんが実は女性だと長州の皆に触れ回って人質にしたことも含めて、断じてあの男を許せないぞ私は! 池田屋に私がいなかったら、今頃沖田くんがどうなっていたことか! 想像しただけで死にたくなる!」
「女性に優しい僕が首謀者なのだから問題なかったさ桂くん、はっはっは!」
「ちっとも優しくなかろう!」
「まあ、長州の運命を変える好機だったんだから今回だけは大目に見てくれたまえよ。それで坂本くん。西郷は動きそうかい? どうも長州一藩だけでは、幕府を倒すのは難しそうだ。新選組は、戦場でも斬り込み隊として恐るべき戦闘力を発揮するだろう。新選組の進撃を阻むには、最新鋭の西洋銃がたっぷりと必要だ。だがわが長州は攘夷戦争をはじめたせいで、列強諸国から兵器を売ってもらえない」
「いや~高杉さん。あん男は、そう簡単には腰をあげんぜよ。まあ、そう焦りな。いずれ、わしが話をまとめちゃるき。うふ」
「……僕にもきみにも、あまり時間は残されていないのだよ。少しは急ぎたまえよ」
「知らん知らん。伊東の未来話なんぞ、わしゃ知らん。己の運命は己で定めるぜよ。ただ、あの沖田総司ちゃんは、どこか他の人間とは違うのう。ああ、あの子が欲しいにゃあ。おりょうと沖田総司ちゃん。わしも、どちらも選べんぜよ! どうすればいいがか、桂さん!」
「坂本くん! ううっ……男とは辛いものだなあ!」
「やれやれ。それでは桂くん、黒船でも買って長州へ帰るかね。過激派の上洛を止めるためには、海上砲撃が必要だ。だが結局、池田屋での大立回りは起きてしまった。被害は最低限に食い止められたとはいえ、『禁門の変』とやらも止められないかもしれないがねえ」
「わざわざ買う必要はないぜよ。長州藩の船をぶんどればいいきに、高杉さん」
「それはいい、坂本くん。面白い! 是非やろう!」
「坂本くん、高杉くん。きみたちはいったい志士なのか、それとも海賊なのか!? もしかして、ただの子供か? 私はもう、疲れた……! 沖田くんとともに隠棲したい……」
桂小五郎の嘆きと愚痴は、徹底して聞き流していい。聞いても特に意味はない。長い付き合いで、坂本龍馬も高杉晋作もよくわかっていた。幾松さんでも沖田くんでもいいから、彼の愚痴を聞いてあげる恋人が必要だなあ、と高杉は戦場で三味線を弾きながら笑った。
※
池田屋、ただいま始末中。
新選組は、屋内での戦闘で斬られた不逞浪士数名を捕縛。みな息はある。斎藤さんも土方さんも、止めをささなかったんだね。捕虜の中に長州の大物志士は含まれておらず、脱藩浪人ばかりだった。
桂さんたちは、それにしても華麗に逃げたなあ。まるで新選組内に手引きした人がいたかのような。
ともあれ、過激志士が京に放火して暴れる計画は阻止できた。当面、長州は上洛戦を延期するだろう。薩摩の寝返りもなかったし、会津・幕府側は長州に備えて万全の防備体勢を敷ける。
「桂と高杉に逃げられちまって大戦果はあげられなかったが、結果的には長州の重要人物を殺さずに京での蜂起を阻止できた。新選組としちゃあなまっちょろい気がするが、これでいいのだろう総司?」
「そうですね、土方さん。いやー怪我の功名というか、すべていい方向に回りましたねー。皆さんが武装して池田屋に現れた時には、もう終わりだ……と泣いちゃいましたよー」
「嘘をつくな。うれし泣きしてただろうが、てめえは」
「し、してませんよお?」
「まあいい、手柄は手柄だ。かろうじて新選組の解散は免れたな。黒谷の会津藩公に報告に行くぜ」
「はいっ、万事解決ですね! でも、伊東さんをどうするんです? まさか斬首……?」
「あんなのでも、平助の師匠だ。特別に慈悲を与えて、切腹にしておいてやらあ」
「お待ちください土方さん、伊東先生の弁明をお聞き下さい!」
「なんだよ平助。そいつは立て板に水の如く嘘をぺらぺら喋る野郎だ、聞きたくねえな」
さすがは、百回以上もループを繰り返してきた伊東甲子太郎。
新選組に捕らわれた時のための「言い訳」も、あらかじめばっちり準備していたらしい。
「土方副長、私は新選組を潰すために活動していたのではありません。実はすべては、池田屋に長州の大物志士を集めて新選組の手で一網打尽にするための策略だったのです! わが門弟の藤堂平助が新選組入りした頃から、私は平助のために、そして新選組のためにこの計画を着々と進めていたのです。人質として敢えて捉えた沖田くんがかすり傷ひとつ負わずに無事なのが、その第一の証拠! 彼女を人質にした理由は言うまでもなく、ばらばらだった新選組の諸君の心をひとつにして池田屋に全力で討ち入らせるため。いわば、苦肉の策だったのです!」
うっわ。ソウダッタノカー。この時代にビデオがあったら、正体を明かした時の伊東さんの得意絶頂ぶりを土方さんに見せてあげたい。言ってることがぜんぜん違うじゃん。
でも見せたら、土方さんが即座に斬っちゃうから駄目かな。
「てめえ、嘘をつくんじゃねえ! 平助のことなんざ、てめえははなっから下僕程度にしか見てなかっただろうが。そもそも桂が総司に惚れていてやたら親切だったから、総司はたまたま無事だっただけじゃねえかよ!」
「私は優秀な策士。そこも含めて計画を立てたのですよ! 決定的な第二の証拠として、古高俊太郎が実は長州の志士だという情報を武田観柳斎に通報した情報源こそ、この私・伊東甲子太郎なのです! 言うまでもなく新選組を立ち上がらせ、同時に池田屋に長州の面々を集めさせるためでした!」
えっ。
武田さんは、自力で古高俊太郎の正体を見破ったんじゃなかったの?
「武田くん。私がきみに渡した密書を、土方副長に見せてあげなさい! 必ず池田屋に持参するように頼んでおいた、あの物証をですよ。まさか、知らぬ存ぜぬで通すつもりではないでしょうね? いけませんよ、そういう蝙蝠のような態度は? 人間は正直が一番ですよ! とりわけ土方副長は嘘つきを嫌いますからね!」
どの口がそういう言葉を言うのかなー。
「おい武田。どういうこった。正直に話せば、切腹だけは勘弁してやらあ」
武田観柳斎は青ざめながら、一通の密書を懐から取り出して土方さんに手渡していた。
「……む、む。実はそうなのです、土方さん。私はなにか手柄を立てねば切腹だと焦っていて、この男から情報提供を受けたのです。なにしろ藤堂くんの師匠ですから、新選組の味方だろうと疑っていなかったのです……これが、その証拠です」
「なんだとお? ほんとうだったのかよ……武田。こんな重要なことは先に言え、先に! 妙にいい仕事をしやがると思ったら、そういうことか」
「自分は新選組隊士ではないし、長らく反幕志士になりきって新選組に目を付けられているから信用されない。この密書の存在は土壇場まで伏せておくようにと、伊東先生が仰ったのです。いずれにせよ、私の手柄であることに間違いありませんぞ! 伊東先生が私にこの重大な仕事を託したのですから。フハーハハハハハ!」」
ほんとうは、土方さんと新選組を破滅させるためにそこまで手を回して池田屋事件をお膳立てしてただけじゃないですか、伊東さーん!
それにしても、さすがに百回以上も土方さんに斬られてきた人だ。面構えが違う。というか面の皮が厚すぎる。失敗した時のための保険まで掛けていたとは、殺され慣れているなー。
わたしはもう、これ以上伊東さんを追求する気力を失ってしまった。もとはといえば、沖田総司くんのレベルを本来到達してはいけない200まで上げてしまったわたしの鬼周回のせいで、世界がバグったんだろうし。
「おお、どこまで見た顔だと思ったら、あなたは平助の師匠の伊東さん? おいおい歳、伊東さんは平助のために敢えて長州の間者として陰働きをしてくれていたんだろう。切腹とか斬首とか、物騒なことを言うんじゃねえぞ」
「ちっ。お人好しの近藤さんに見つかっちまったか……あんたのことだから、伊東を新選組に招こうとか言いだすんだろうなあ? 俺は絶対に反対だぜ?」
「阿吽の呼吸だな、歳。伊東さんには是非、参謀として来てただこうではないか。わはははは!」
うわあ。これで総長の山南さんの立場がなくなる……かと思いきや、山南さんは晴れやかに微笑んでいる。
「伊東さんは、今回の件で長州を敵に回してしまいました。新選組にいれば当面は安全ですよ。是非おいでなさい。私は北辰一刀流の門下生に顔が広いですが、伊東さんは神道無念流の門下生に顔が効く。お互いに、新選組の局長と副長を補佐して参りましょう」
なにがあったんだろう? 山南さんがずいぶんと明るくなったような……?
「なんだよ山南さんまで。しょうがねえな、好きにしろ。俺は知らねえぞ。伊東がまた妙な真似をしたら、斬るからな」
「大丈夫だと思いますよ、土方くん。新選組にはなにしろ、沖田くんがいてくれる」
「ああ。かたじけない、山南くん。地獄に仏とは、あなたのことです!」
伊東甲子太郎は(即死だけはかろうじて免れた)と山南さんの手を握って安堵したが、しかし、(またしてもあれほど拒絶してきた新選組に入ってしまった。結局は土方に斬られるに決まっている、時期がズレただけだ……また死に戻るのか……)と内心では将来を悲観してるようだった。
まあ、その、伊東さんの過去と本音を聞いたのはわたしだけだし、顔色を見ればわかっちゃいますよ。わたしも同じ目に遭ったら……実は伊東さんと同じようにわたしもループさせられる羽目になるのでは……と思うと、つい伊東さんに同情してしまう。
「伊東さん。前向きに考えましょう。そうですよ、問題はとっても単純なことなんです。要は、新選組が滅びなければいいんですよ。わたしとともに頑張りましょう。それで、伊東さんの運命も変えられます!」
「……沖田くん。きみは、その……脳天気ですね……それこそがいちばん難しいんじゃないですか。もしかして、きみは馬鹿なのですか」
えーっ? 伊東さんにかわいそうな子を見る目で見られちゃったー! どうしてーっ?
あ、そうか。新選組生き残りルートを開く努力も重ねたけれどいつも潰えてきたってこと? そうかー。百回以上も人生をやり直しているんだから、そのルートも一度は追求してるよねー?
あーっ。恥ずかしい、わたしってば。
「おい待て伊東。なにを訳知り顔をしてやがる。こいつは確かに馬鹿だが、てめえと違って人望があるんだよ。全隊士が池田屋に討ち入る、新選組が潰れてもてめえが切腹になっても構いはしない、という意見で一致したんだからよ。この馬鹿のために――」
土方さんが、わたしの頭をくしゃっと掴んできた。あーやめてください、せっかく町娘風に綺麗にセットした髪が~。
「てめえ、こんどうちの総司に妙な真似しやがったら、無言で叩き斬るからな」
「……しょ、承知しました、土方副長……確かに、今までの新選組とは違う……一本、芯が通っているような気がします。やはり沖田くん、あなたの存在が歴史を大きく変えることになるのかもですね」
ん? どういうことですか伊東さん? わたし、遠回しに言い含められてもよくわからないので、はっきり言ってもらわないと。
「だとすれば、私もあなたに賭けてみましょう。新選組をともに盛り立てて行こうではありませんか!」
「うひゃあ。突然、仲間にならないでくださいよー! びっくりします!」
「待て、総司の手を握るんじゃねえええ! 殺すぞこの野郎!」
「ああ、たとえ新選組の運命が変わっても、やはり私の運命は変えられないのか……」
土方さんが今なお伊東さんを疑っていて、やたら斬りたがっているという問題は残ったみたいだけれど。
新選組と長州が激突する池田屋事件は、ぎりぎりのところで「新選組の勝ち、しかし長州の大物志士は脱出に成功する」という新選組にとって最善の終わり方を迎えられた。いったいなにがどうなって、こんなにも難易度の高い結末に到達できたのかは、よくわからないけれど――。
「それじゃ総司、黒谷に行こうぜー! 道々、団子を奢ってやんよ! 桂って奴もあれだな、浮気性だな! 祇園に、ベッタベタにご贔屓にしている芸姑がいるって言うじゃねーか。こんど見つけたら串刺しだな、串刺し!」
「無事でなにより、総司。伊東先生がまさか、陰でわたくしたちのために働いてくださっていたなんて。この藤堂平助は、とても感激しました。伊東先生と土方さんの不仲だけはなんとかなりませんか、総司?」
「……致命傷を避けつつ相手を斬って倒すのは至難の業だった。総司、お前にしかできない芸当だ。自分はもう懲り懲りだな……だが、そんなお前の剣こそが正しいのかもしれない。まさしく『猛者の剣』だ……」
「子細はなにもかも土方さんから聞いたぞ、総司! 乙女でありながらほんものの総司を労咳から救うために、代役を、いや、二代目を勤めてくれていたのだな! 感謝する! 案ずるな、お前は新選組一番組隊長の沖田総司だ! みな、お前を沖田総司だと認めたからこそ、池田屋に討ち入ったのだ。正真正銘の助成だと知れたからには、ますます武田観柳斎のような手合いに迫られて困るだろうが、拙者に任せておけ。兄貴分として、総司を守ろうではないか」
「やれやれ。総司にはその話はしないでおこうと決めていたのに、早速喋ってしまいましたね。永倉さんは正直者すぎる」
「や。しまった、源さん。拙者、どうにも隠し事ができない性格で。すまん総司、今の言葉はなかったことにしてくれ!」
「えーーーーっ? わたしの正体が新選組内に知れ渡ってるんですかーっ? 土方さん、どういうことなんですかこれはーっ?」
「……うるせえよ。山南さんがよせばいいのに知恵を絞って真相を言い当てちまったんだよ。仕方ねえだろ」
「俺にとっちゃ妹でも弟でも同じだ。お前は試衛館天然理心流の跡継ぎ、天才剣士沖田総司だよ。なにも心配するな、わはははは! とはいえ、歳の心境は少々違うようだがな! それもまた青春さ」
「どどどどういうことです、近藤さん?」
「かっちゃん。頼むからそこまでにしてくれ。いくらあんたでも、言っていいことと悪いことがあるぞ?」
「わかったよ歳。まったく、バラガキの歳もこういうことになるとまるでガキだなあ。まあ生暖かく見守ってやるさ、試衛館の長兄としてな。わはははは!」
土方さんは近藤さんに「あんたはなにごとにも豪快で羨ましいよ」とぼやきながら、ぶっきらぼうにわたしの手を掴んできた。
「あっさり人質にされやがって、もう勝手にフラフラするんじゃねえ。目を離すとすぐにこれだ。ほら、行くぞ」
「は、はいっ! 土方さん!」
「今夜はゆっくり寝ろ。新選組は滅びやしねえよ。沖田総司の剣が、呻る限りはな。こうなっちまっては、お前を除隊させるのはもう無理だ。だからこれからは――俺から、離れるな」
はい、とわたしは思わず満面の笑みで答えてしまって、土方さんに「少しはものを考えてから答えろよ、馬鹿」と叱られてしまった。ええと。もしかして、今の土方さんの言葉にはなにか重大な意味が……?
いやいや、考えすぎだよね。「馬鹿」は土方さんの口癖だから。
わたしの手を離さないまま、土方さんは黒谷の会津本陣への道を突き進んでいた。「誠」の旗を掲げた、新選組の仲間たちとともに。
だいじょうぶ。今日、この池田屋で確実になにかが大きく変わった。
きっと、運命は変えられる――。
『新選組アクションアドベンチャーゲーム』に転生した私はどうやら女の子のまま沖田総司になってしまったそうです~女とバレたらいけない新選組生活~ 春日みかげ(在野) @kasuga-m
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