第3話 原体
その一か月後。
ワッフルキャンディをにぎった私は、商店街の入り口で立ちつくしました。
ちぃん、ちぃん、と鉦を鳴らしていたロボットは、姿を消しておりました。
学校へ行く途中にはたしかにいたのに。
駄菓子屋に寄ってキャンディを買って走ってくると、そこから消えておりました。
「あれはね、あまり調子が良くなかったのだそうだ。
ロボットは、どんなものでも経費がかかる。ここにはもっと経費のかからん
お巡りさんの、堅い、あえて冷たく話そうとしているようなその声は、むしろありがたい気すらしました。
――― 魍魎
――― ただでさえ稼ぎのよくない仕事だったのに。
――― 薬代やら医者代を延々つかって女房子供を苦しめるよりゃ、身売りでもしたほうがましだからねぇ。
――― ロボットの原体になるのだったら、むしろ立派な仕事だものさ。
同情めかした、と言うのでしょうか。当時の私は幼くて、もはやそんな言葉を耳にしたくはありませんでした。
ぎゅっ、とにぎった右手のなかに硬い感触。
へんな色のワッフルキャンディを、口にいれて、がりがり
小麦の風味を下手にまねでもしたような
つばと混ざって地べたに落ちた、くだけたキャンディのみじめな姿に、なぜか今まで買ってきたキャンディの姿が重なっては消えてゆきました。
オレンジ・トウモロコシ・ウメボシ・サンザシ。ワタアメ・シークヮーサー。このワッフル。
オ・ト・ウ・サン ワタ・シ ワ…… ゲン…… キ……
――― ちぃん、ちぃん
その音がした気がして、振り向きます。
学校の本にのっていた、外国の霊柩車に似た原体輸送車が、『輸送中』のランプをつけて、ベルを鳴らして、商店街前のせまい道をゆっくり通ってゆくだけでした。
いま運ばれてゆく人は、どんなロボットになるのでしょう。どんな楽器を奏でるのでしょう。
そのロボットに、あたたかく湿った舌は残っているのでしょうか。
ブリキの柩のなかの舌 武江成緒 @kamorun2018
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