最終話 あなたのエガオ
超心会のスパイだった
犯罪組織の元メンバーっていう経歴も、先生が所属してる組織が全力でもみ消しているらしい。『桐神君の将来のためにはこれくらい何ともないさ』って、先生は笑いながら話してたけど、どう考えても大変な作業だよね。
一体どれくらいの権力を持っているんだろう。気になるけど、ちょっとこわいので聞かないことにした。
それから桐神君のことは、みんな許してくれた。
それが、たった三日のできごと。
木曜の一時間目に起きたあの一件から三日後、つまり日曜日の朝。本来はお休みなんだけど、私たちは学校に来ていた。
先生が言うには、
「桐神君をこの学校に通わせ続けることは校長先生も許してくれたんだけど、それが条件付きでね。桐神君には日曜日を使って物置の片づけをしてもらうことになったんだよねー。まあちょっとした罰だよ」
ということらしい。先生が校長先生に顔がきくっていうのは本当だったみたい。これもコッカケンリョクってやつ……?
「うわぁ、ほこりっぽいなあ」
そんなわけで、私たちは物置になっている別の空き教室にやって来ていた。
「……みんな、本当に手伝ってもらって良かったの? 片づけるよう言われたのは僕だけなのに」
うす暗い物置のドアを開きながら、桐神君が遠慮がちにたずねた。
「もちろんだよ。一人でやらせるわけにはいかないもん」
「まったく、こころはやさしすぎるわ」
私たちの後ろで、恵ちゃんは桐神君をにらんでいた。
「あたしはこころが行くっていうから、仕方なく来ただけよ。あんたがまた変なことするかもしれないしね」
「オレもお前を見張るために来たんだからな。勘違いすんじゃねえぞ」
「って言いつつ、二人とも汚れてもいい服着てしっかり手伝うつもりじゃん。素直じゃないな」
「うるせー! さっさと終わらせるぞ!」
初めて集まった日、桐神君に『物置の片付けを手伝わされるのかも』って言ったけど、まさか本当になるなんてね。
先生に言われたものを探して取り出したり、あらかじめ指示された通りにならべたり。もくもくと手を動かしている間にも、頭ではこの前のことを思い出していた。
黒見君の過去を見ようとした時、私は自分の過去を見た。その時に、私はとある『友だち』と話をしていた。
あの子が小学生の時の、大切な友だちだってことは分かってる。でも、それ以外が思い出せないの。
あの子の名前、あの子とあそんだ記憶。それらがどうしても出てこない。
たぶん私は、あの頃の記憶を、まとめてふうじこめてるんだ。それも、ただの思い込みなんかじゃなく、自分の超能力で無理やりに。
その答えにたどり着くと、次はこう思うようになっていた。
――私の超能力は、『テレパシー』じゃないのかもしれない。
人の記憶にもぐりこんだり、自分の記憶を閉じ込めたり。そんなの、人の心を読むだけのテレパシーを超えてると思う。毎日使わないと体調を崩しちゃうのも、そんな強力なチカラのせいなのかも。
きっと私は、自分に関わるとても大切なことを、自分で隠しちゃってるんだ。
それを見つけるためにも、私は超能力教室で、このチカラのことをもっと知る必要がある。
超能力教室と言えば、まだ先生の超能力を当てるって課題も残ってるしね。
「
ぼんやり考えごとをしてると、桐神君に声をかけられた。
「あっ、ごめん、大丈夫だよ。ちょっとぼーっとしてただけ」
「……もしかして、やっぱりどこか痛めてるんじゃない?」
手に持っていたダンボールを置きながら、桐神君は少しだけ暗い顔をした。
「あの時、僕は君に超能力を向けてしまった。そのことがずっと気がかりで……本当にごめん」
「そ、そんな気にしなくていいってば。もう10回くらいあやまってるよ?」
桐神君はやっぱりやさしくてマジメだよね。悪者なんて似合わない。
「ケガとかもないし、ほんとに大丈夫だってば。だからもうあやまらないで? 暗い顔より、いつもみたいに笑ってる桐神君の方が……」
……ちょっと待って私、今なに言おうとしてた!?
笑ってる桐神君の方が素敵だよって、そんな軽はずみに言っちゃいけないでしょ! 何考えてるの私!
それに思い返してみると、この前の私もかなりはずかしいこと言ってたんじゃないかな……あの時はとにかく桐神君を改心させることで頭がいっぱいだったけど……。
「何を言われても桐神君を嫌いになったりしない」とか「ずっと桐神君の味方だよ」とか、そんなのもう、半分告白してるみたいなものじゃない!?
いや、本当に思ってるけどね! ずっと味方でいるって思ってるけど!
考えれば考えるほどはずかしくなって来るよ……もう少し言い方とかなかったのかなぁ……。
「白水さん?」
「ひゃあ!?」
そんな時に桐神君から声をかけられて、ヘンな声が出てしまった。
「どどど、どうしたの桐神君」
「……いや、白水さんこそどうしたの? すごい顔赤いけど」
「ちょっと暑くなっただけだよ! あはは……」
「そう? まあ、たしかに熱こもってるよね、ここ」
どうにかギリギリごまかせた。ごまかせたかな?
暑い顔をパタパタと手であおぎながら、無理やり話を戻した。
「ま、まあつまりだよ? みんな笑ってた方が楽しいから、そんなに思いつめないでほしいなって私は思っただけで……」
そんな私の言葉をさえぎって、恣堂君の大きな声が物置にひびいた。
「おもしれーモン見つけたぞ! 昔の卒業アルバム! センセー探そうぜ!」
「バカね、咲架先生はここの出身じゃないでしょ。けど気になるからあたしにも見せて」
「お前ら部屋そうじの途中で漫画読むタイプか? 終わってからにしろよ……まあ俺も見るけど」
片づけそっちのけで誰のかも分からない卒業アルバム鑑賞会が始まってしまった。
私と桐神君は顔を見合わせたあと、二人して笑った。
「たしかに、笑ってた方が楽しそうだね」
桐神君の笑顔は、前よりずっと明るくなった。私もたぶん、みんなと出会う前よりも楽しく笑えてると思う。
桐神君やみんなと出会えたこと。そのきっかけとも言える超能力のこと。
そして自分自身のことが、少しだけ好きになれた気がする。
ヒミツの超能力教室 ポテトギア @satuma-jagabeni
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