残渣痕

「ナオさんには気の毒だったが、また、うちが標的にされたわけでなくて良かったよ」


 病院の個室で、車椅子に乗った哲之介は安堵のため息を漏らした。


「レイからいち早く連絡もらえたし、おふくろの観察眼も的確だった。何と言ってもナオさんの落ち着いた行動で命が救われた」

「ああ、あの発砲音は何度聞いても肝を冷やす」

「親父、署長と教育委員会との癒着、決着がつきそうかい」

「ああ、一平の今回の解決で、いろいろ出てきそうだ」


「ナオさん、20日ほど早く生まれたけど元気で良かったあ。今回も男の子だったけど、次は女の子が出来るよう頑張るから」

「どうやって?」

「いやなのか?」

「そういうわけやあらへんけど」


 署長が教育委員会から接待を受けているのは、ゴルフや酒席だけではなく、女性まで面倒をみてもらっているという。

 それを吹奏楽部のバカボンが全てぶちまけてくれた。


「本当に使えないヤツ。役立たず。うちの爺さんがどれほど接待していると思っている。こういうときのためだろ。屋上の薬莢を回収してくれと言ったのに、そんなことも出来ないで。爺さんのお古の女まで宛がわれて、いい気になってるんじゃねえ」


 哲之介は退職後も、「オニ哲倶楽部」と銘打って教育委員会理事や副署長とチェスをしたり、碁盤を間に挟んだりしていた。


 森林公園近くで農作業をする老人から、狩猟解禁という時期でもないのに森の奥から銃声が聞こえた、という通報があり、猟友会が森に入ると薬莢が落ちていた。

 ウサギや鳥の死骸も転がっていた。

 

 薬莢の持ち主を探っていくと、以前、猟友会メンバーだった、今は脳梗塞で寝たきりの元教育委員会会長。

 その息子は医者をしていて海外赴任で不在だった。

 中学生の孫がいて楽器か何かの大きなケースをアシスト自転車の荷台に括り付けて、よく出かけているのを近所の主婦に目撃されていた。


 だからフルート少年は最初から目をつけられていた。

 まさか、昼間の警察官宅が狙われるとは思っていなかったのだが。

 少年も中学校の屋上から、見晴らしのいいマンションのお腹の大きな女性を標的にしただけだった。


 犯行を隠すどころか、猟銃にも薬莢にも少年の指紋がべったりと貼り付いていた。


 ああ、標的が人間だと爽快だな。

 腹ボテで大きい的は失敗だったけどな。次は小さなもの、赤ん坊がいい。今度は散弾銃を手に入れたいな。

 取り調べを受ける間中、考えていた。

 少年は向かいに座る刑事が、腰につけているピストルもいいなあと、思いを馳せるのだった。




   【了】


最後までお付き合いくださいましてありがとうございました!

またすぐにお目にかかれるかもしれまへん🎵


『🏡ナオが消えた💓』もお付き合いくだされば嬉しいです🎵

https://kakuyomu.jp/my/works/16817330659151436213/episodes/16817330659152150194


 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

4🏡ナオ危機一髪💓 オカン🐷 @magarikado

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る