犯人はおまえさ!

「薬莢も落ちているし、やっぱり現場はここのようだな」

「大谷刑事、現場保存は完璧です」


 一平から連絡を受けた鑑識課のアヅマが大きな躰で、何人たりとも近づけないように、中学校の屋上にいち早く駆けつけた。


「あっ、署長、珍しいですね。現場に姿を見せるなんて」

「おお、大谷君、教育現場なんでね、何か間違いがあったら大変だからね」

「そうですね、署長もあと半年で定年ですね。間違いのないようにしっかりと捜査します」


 署長はまだ何かを言いたそうだったが、一平は音楽室へと急いだ。


 放課後の部活をしていた吹奏楽部の担任教師が、生徒たちに話をしているところだった。


「犯行現場はこの学校の屋上らしい。何か見た者はいるか?」


 シーンと静まりかえる教室。


「誰も見た者はいないようですね」


 担任教師は早くお引き取りをと言わんばかりに、そそくさと終わらせようとした。


「犯人は上が白、下が黒という服装で、先生、あなたもそういう格好してますね」

「いや、私は職員会議に出ていて、先生方に訊いてください。アリバイがある」

「確か先ほどは、ずっと部活に付き添っていて、生徒たちはこの教室から出てないと供述しましたよね」


 一平が鋭い視線を向けると、教師はあたふたした。


「使えないヤツばかり」

「それはどういう意味かな?」


 教室の中央に座ったフルートを持つ少年に目を光らせた。

 少年はほくそ笑んだ。


「大谷君、生徒は何も見てないと言ってるんだから、もうその辺で」


 署長が身を乗り出して来た。

 その辺も何も、まだ何も訊いてはいない。


「教育委員会が乗り出して来たら厄介だぞ」


 署長に従う振りをして一旦、退出し、すぐに戻って来た。


「君の楽器ケース、フルートのケースにしては大きくないか? ちょっと見せてもらってもいいかな?」

「やめてくださいよ。何の権限があって」


 男子はほくそ笑んでいる。この男子から微かに火薬の匂いがした。

 それにしては、このゆとりは何なんだろう?


「だからやめてくださいって言ってるのに」


 楽器のケースから出てきたのは大量のエロ本。

 隣の男子のケースも同じだった。

 そのもう一つ向こうに青ざめた表情の女子がいた。

 楽器ケースを躰のうしろに隠そうとしている。


「庇い立てすると同罪だよ」


 女子生徒は躰を震わせ、今にも泣き出しそうな表情に変わった。


「使えないヤツばっか」

 

 あの男子生徒がまた呟いた。




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