No.34 Ⅱ

 どれくらい経ったかはわからないが、音が聞こえなくなったところで耳から手を離した。


「どうだった?私の演奏、心して聞いてくれたかな。」


 この上ないほど楽しそうな声で聞いてくる。

 実際先輩はギターどころか楽器の演奏なら何でもござれで、どんな楽器でもプロ並みに弾けてしまう。そんな中でも一番得意なギターは、他の楽器と比べても一線を画すほどになるのだが二つほど問題があり(その中の一つが爆音で鳴らすということにある。)その演奏をちゃんと聞けたことなど一度しかない。

 本人曰く「爆音で相棒をかき鳴らすことこそが私の流儀ロックなんだ!」らしい。どうかしている。


「うるさすぎてわからなかったです。」


「いつも同じことしか言わないって惟神カムちゃんが拗ねてるぞ!」


 もう一つの問題がネーミングだ。無論ギターに名前を付けることが悪いということではない。気に入ったギターやお世話になっている道具に名前を付けること自体は有名な人でもやっていると聞いたことがある。問題は、ネーミングセンスが絶望的と言うところにある。

 惟神かむながら(通称カムちゃん)には二つの意味があり、一つが『神の心のまま。神代のまま。神の手が加えられないこと。』で、もう一つが『神として』と言う意味だ。いくらなんでも痛すぎる。


「はいはい。すごかったですよ。」

 100パーセントの世辞に、これまた100パーセントの営業スマイルを付けて返す。


「もっと心を込めて―――うッ……!」


「―――クッ……」


 突然来た謎の波動に押され、こらえる。

 上を向くと、空に浮く島から黒くて丸い何かが下りてきていた。その『何か』が近づいてくるにつれて空気のひりつき…と言うのだろうか。それが強くなってくる。

 その『何か』はとても高速で移動―――いや、落下している。しかも二人の頭上に。

 そう気づいた瞬間、ナルは強張る足を奮い立たせて逃げる。それと同時に隣にいたナルも動き出す。

 しかし次の瞬間、ナルはネクのとった行動に目を見張ることになる。

 なんと先ほど演奏に使っていたスピーカーの元へ向かい、電源を入れ、ボリュームを最大まで上げる。そして肩に提げていたギターを手に取ると、おもむろにかき鳴らし出したのだ。

 ナルは呆気にとられて耳を防ぐのを忘れてしまっていた。勿論苦痛を感じた直後に耳を塞いだが、ナルの鼓膜を破壊するには十分の轟音だった。痛みで歩くこともままならず、そのまま地に伏してもがく。そんなナルを横目に、ネクはついぞギターを弾く手を止めることはなかった。

 ナルが痛みに慣れ、他のことに若干他の感覚にリソースを割けるようになったとところで、ナルの視界を暗黒が覆う。―――それは幼いころに童話で読んだ邪龍よりも黒く、すべてを吞み込んでしまうかのように思えた。

 その後、ナルは意識を失った。


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 読んでくださりありがとうございます。

 一つ相談です。ナルくんとネクちゃんカタカナと漢字どっちがいいでしょうか。コメントしてくれると助かります。

 あと最初ナル君の一人称の小説でいこうかなと思っていたのですが、僕の能力では難しかったので三人称視点に少しづつうつさせていただきました。

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神と旅路と音楽と もやし鍋 @yumewomitai_moyashi

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