神と旅路と音楽と

もやし鍋

No.34 Ⅰ

「あー、疲れたー!」

と言いながら元気いっぱいに先輩―ナルが叫ぶ。


「元気そうで何よりです。ほら、あと少しで人のいる町に着きますから頑張ってください。」


「あと少しって、まだまだ全然森の中なんですけど。その地図間違ってるんじゃないの?」


もう既に3時間ほど歩いているが、未だ町は見えてきていない。この地図は五年前の少し古いものではあるが、さすがに五年で町がなくなるなんてことはないと思い、男性の調査員―ネクはもう少し進んでみることにした。


「うわ、なにこれ?」

十数メートル先を歩いていたネクが声を上げる。ナルがネクのもとに駆け付けると、目の前には広大な湖が広がっていた。

ここに来るまで水の音など一度も聞いていないはずだ。しかもこの湖、遠くからは見えなかった。明らかにおかしい。

そんなことを考えていると、視界に奇妙なものが移る。湖の中央部分の暗く影になっている場所に瀑布があった。

滝口はどうなっているのだろうか。そう考えるよりも先に上を見ると、なんと巨大な浮島があった。大きさは、ちょうど湖と同じくらいで、丸い。島の底の中心部分からは、暗くてあまりよく見えないが、水が落ちてきていることはわかる。

今自分たちがいる場所からだと100メートル以上は離れていそうだ。


「もしかしてこれが今回の異変ですかね。」


「もしかしなくてもこんなおかしな出来事、そう考えないほかないでしょ。」


僕たちはとある国の派遣調査員だ。派遣調査員と言うのは世界各地に赴いて、その地で起こる超常的な出来事や異変なんかを止めたり、記録したりするということをしている。

ただしどんな異変が起こるかなどは守秘義務があるらしく、派遣調査員には事前に教えられない。

そんな馬鹿馬鹿しい守秘義務があるものかと先輩と抗議をしたこともあるが、どうやら国のトップの命令らしい。逆に僕らに伝えられるのはそれが起こる大雑把な場所と、報酬の額のみだ。当然危険な任務であればあるほど報酬は弾む。


そして今回伝えられたのは、No.34《ネルカ》で異変が起こるからそれを修復してこいとのことだった。

対して報酬は高くなかったので大したことないと思ってきたのだが、こんなことが起こっていようとは。あとできっちり働いた分を請求せねばならない。


「これに登るのか…。」

つぶやいて先輩を見ると、鞄から取り出した大きな装置を前に、難しそうな顔をしていた。ちなみに先輩の使っている鞄はそのサイズよりも数倍たくさんのものが入るいわゆるマジックアイテムと言うものだ。神代ロスト・道具ツールで、ものすごく貴重なもののはずだ。毎度見るたびに、趣味のせいでいつもお金のない先輩に買えるようなものではないと思ってしまう。何か理由があるのだろう。


「何をしているんですか?」


「ほら、私のギターを爆音でかき鳴らせば上まで届いて気づいてくれるかなと思って。」

機械をいじる手を止めずに返事をしてくる。


「気づかれても多分怖がって石とか落としてくるだけだからやめましょうよ。それよりもあれの上に人が住んでいるというのであれば上に行く手段はあるはずです。」


そんなことを言っている間にも先輩は機材のセッティングを済ませてしまっていた。最後に鞄からギターを取り出す。今日はまだ弾いていなかったのでチューニングからやるらしい。慣れた手つきで6弦から合わせていく。


最後まで終わるとやっとギターをつなげて、先輩の持つピックが弦に触れた瞬間、ドラゴンが間近で咆哮したような、そんな爆音が鼓膜を打ち抜いてきた。いや、破壊しに来た。あと少し耳を塞ぐのが遅かったら僕の耳は使えなくなっていただろう。塞いでもなお聞こえてくる。耐え切れずにスピーカーの後ろへ行くと少しはましになったのでこのまま早く演奏が終わることを願いながら目をつぶり無心で待った。


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見つけてくださりありがとうございます。

小説を上げるのもこれが初めてなので、是非感想などあれば一章終わったあたりにでも書いていただけると嬉しいです。誤字脱字や、表現の不十分な箇所もあると思いますが、優しく指摘してくださると私の執筆速度に芸術:執筆[10]でダイスロールに成功するくらいの確立でバフが乗るかもしれません。(TRPGネタです。)

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