元魔王様と元魔王軍最強の魔族 2
フォルトゥナが斬る前に発動させたのは陣形魔法だ。
昔からフォルトゥナが得意としている魔法であり、事前に対価を払い終えた魔法陣を紙に付加して、任意のタイミングで発動させる独自の戦闘技法を生み出していた。
故にその紙が見えた瞬間にジルは攻撃がくると分かった。
「くっ!?」
なんとか断絶結界を自分の正面に展開させる事が出来たが、フォルトゥナの曲剣に容易く粉砕されてそのままジルに直撃する。
魔装した腕をクロスさせて防御姿勢も取っていたが、その威力に吹き飛ばされて腕からは血を撒き散らす。
「「ジル様!?」」
「お二人共、お下がり下さい!」
ジルが吹き飛ばされて動揺する二人。
ジルが怪我をするなんて滅多に無い事なので心配になるのも当然だ。
そして動揺して戦闘どころでは無い二人を背に庇いつつ、追撃を警戒してミネルヴァが前に出る。
「貴方はジル様のお仲間ではなかったのですか?」
「すみません、僕はもう戻れないんです。」
「ふぉ、フォルトゥナ様?」
ミネルヴァの質問に悲しそうに呟くフォルトゥナ。
奴隷の少女ルルスは状況がよく分かっておらず困惑している。
「いいねいいね、やっぱり君は最強の手札だよ。手に入れておいて正解だった。」
「…。」
黒幕が上機嫌で拍手をしている。
フォルトゥナが普段の言動からは考えられない強さを持っている事はこの黒幕も知っている様だ。
「…フォルトゥナ、どう言うつもりです?」
「ジル様を攻撃するとは、死にたいらしいわね?」
一先ずジルが殺されていない事を遠目で確認した二人がフォルトゥナにとんでもない殺意を向けている。
敬愛する主を傷付けられて黙っている二人では無い。
「手を引いてくれませんか?僕は貴方達であっても女性とは戦いたくないです。」
「あまく見られたものですね。」
「いつまでも最強気取りなのがむかつくのよ。ミネルヴァ、こいつを殺すわよ。」
「はい。」
三人がフォルトゥナを倒すべき敵と判断して攻撃を仕掛けようとする。
相手が女性ばかりなのでフォルトゥナは少し戦うのを躊躇するが、それを黒幕は見越していた。
「フォルトゥナ、そいつらを逃すのは認められないよ。しっかりと始末してくれ。ここの秘密を知られてしまったのだからね。その代わり君の大切な人質や他の人質には配慮してあげてるんだからさ。」
「…。」
それを聞いてフォルトゥナは腰の曲剣の柄に手を添える。
戦いたくはないが人質を盾にされては従わざるを得ない。
「お前達、下がれ。」
「「「ジル様!?」」」
ジルが腕から血を流しながらも三人の下までやってきて言う。
このまま戦わせる訳にはいかない。
三人もかなり強い方だが相手が悪過ぎる。
「…やはりこの程度では倒せませんよね。」
言葉とは裏腹に少し安心した様な雰囲気が伝わってくる。
フォルトゥナもジルを倒したいなんて思ってはいないのだ。
「フォルトゥナ、気付いてやれなくて悪かったな。我の確認不足だった。」
「…ジル様を…主君を気付けた僕に謝らないで下さいよ…。」
フォルトゥナが顔を歪めてポロポロと涙を溢す。
この涙がフォルトゥナの気持ちを表している。
「お前がこんな事をしたくないのは我が一番分かっている。お前の性格上あり得ない行動だ。」
「まさか奴隷ですか?」
「首輪は無いみたいですけど。」
「いや、これは呪いだ。」
最初から万能鑑定を使っていれば気付けた事だった。
今はフォルトゥナに万能鑑定を使用しているのでしっかりと視えている。
「ほおー、まさかフォルトゥナの現状を看破されるとは。何かしらの鑑定系スキルでも持っているのかな?」
見破られるとは思っていなかったのか、黒幕が少し驚いた様な声を上げる。
「敵に情報を与える訳が無いだろう?」
「フォルトゥナ、この人はそう言うスキルを持っているのかい?」
「おそらく万能鑑定のスキルだと思います。」
黒幕に尋ねられるとフォルトゥナが直ぐに答えてしまう、
ジルが黙っていても簡単に情報が渡ってしまった。
「おい。」
「し、仕方無いんですよ。自分でも話したくて話してる訳じゃないんです!」
ジルがフォルトゥナを睨むと慌てながら弁明してくる。
言いなりになってしまうのは呪いの効果なのだろう。
「それでもある程度は自制出来る筈だろうが。お前の心が弱い証拠だ。」
「すみませんー!」
ジルに注意されると図星なのか素直に謝ってくる。
「あまり責めないであげてほしいな。」
「そうだな、フォルトゥナは悪くない。操っているお前が悪いのだ。我の仲間によくも呪いなんてものを掛けてくれたな。貴様の死罪は決定だ。」
ジルが怒気を含んだ声で別の場所にいるであろう黒幕に向かってそう告げた。
【毎日更新】元魔王様の2度目の人生 ゆーとちん @yuutochinn
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