83章
元魔王様と元魔王軍最強の魔族 1
地下へと降りられたジル達は周りに怪しまれない様に移動していく。
辿り着いたのは大きな倉庫の様な建物だった。
「ここだな。」
「周りに紛れていて一見すると分かりませんね。」
「怪しまれないし閉じ込めておくのにはぴったりね。」
外からは他の倉庫と同じ様な資材置き場に見える。
だがジルの空間把握では中にいるのが資材では無く人だと分かっている。
目で探していたら見つけるのは大変だっただろう。
「ここに多くの人質が。」
「まだ人質と決まった訳では無いけどな。」
「ジル様、私が先行しましょうか?」
危険な役目をミネルヴァが買って出てくれる。
この中では一番実力が下ではあるがミネルヴァも中々の強者だ。
「いや、何があるか分からないからな。全員で行くとしよう。」
「地下はかなり厳重ですしね。」
ミネルヴァは元砂賊と言っても今は仲間だ。
安全第一で進んでいきたい。
「でもどうやって入ります?また私の魅了魔法を使いますか?」
テスラが角から少しだけ顔を出して、遠くにいる倉庫の扉を見張っている者達を見ながら言う。
「魔法やスキルが使えるのであれば問題無い。空間置換!」
ジルは倉庫の内側と外側の一定の空間を入れ替える。
これによりジル達は扉を使わずに倉庫の中へと入れた。
「さっすがジル様!」
「魔力消費は大丈夫ですか?」
「かなり減ったがポーションがあるから大丈夫だ。やはりこの人数の移動は消費量が凄まじいな。」
便利な魔法ではあるが魔力消費が大きいのが欠点だ。
ジルは極上蜂蜜で作られた甘いポーションを飲んで魔力を回復させる。
このポーションが出来たおかげで魔力消費を気にする必要が無くなったのでシキには感謝している。
「こっちだな。見張りも気付いてはいない様だ。」
「やっぱり時空間魔法って反則級ですよね。」
「テスラの魅了魔法も相当だと思いますけど。」
適性が高いからこその高性能なのだが、どちらの魔法も元々使い勝手が良いと言うのもある。
さすがは特殊魔法や希少魔法だ。
「この扉の先だな。」
人質達が閉じ込められている部屋の前まできた。
頑丈そうな扉が目の前にある。
鍵穴が付いているので普通には開けられない。
「破壊しますか?」
「それは最終手段だな。取り敢えず空間置換でいいだろう。」
ジルは倉庫内に侵入した時と同じ様に扉の内外の空間を入れ替える。
部屋の中はかなり広く大勢の人がいた。
「「「っ!?」」」
突然現れたジル達に気付いて驚いたり後ずさったりと様々な反応を示す。
「あらら、敵じゃないからそんなに警戒しないでほしいわね。」
「と言っても怪し過ぎますよね。」
自分達は無害だとテスラやレイアが両手をあげて示しているが怯えた表情を向けられてしまっている。
「フォルトゥナ、当たりか?」
「…はい、見覚えのある人もいます。」
同じ治安維持組織の人質は何人か見ている。
その者達もこの中にいる様だ。
そしてフォルトゥナは自分の人質である奴隷の少女を探してキョロキョロと部屋の中を見回している。
「…フォルトゥナ様?」
人質の中から少女が現れて少し驚いた様に呟いている。
「っ!?ルルス!」
その少女を見たフォルトゥナが急いで駆け寄る。
どうやらこのルルスと言う少女がフォルトゥナの奴隷であり人質らしい。
「無事でしたか!?無事ですよね!?」
「お、落ち着いて下さい。私は閉じ込められていただけです。」
「そ、そうですか。」
怪我が無いか焦った様に確認しているフォルトゥナを落ち着かせる様にルルスが言う。
そこまで酷い扱いは受けていなかった様だ。
「見つかったみたいだな。」
「良かったですね。」
「はい、皆さんには感謝しかありません!」
フォルトゥナがジル達に頭を下げる。
ベタ惚れ薬があっても自分だけではここまで辿り着けなかったかもしれない。
「それにしても数が多いですね。一体どれだけの人を従えているのやら。」
この大部屋にいる人質の数は三桁を超えていそうだ。
それだけ多くの者が治安維持の為に無理矢理働かされているのだろう。
「知りたいなら教えてあげようか?」
「「「「っ!?」」」」
突然頭上から聞こえた言葉にジル達が戦闘態勢に入る。
だが声は聞こえても姿は見えない。
「そこにはいないから見回しても無駄だよ。魔法道具で君達を見ながら声だけをその部屋に届けているのさ。」
「テルイゾラの黒幕か?」
「まあ、そんなところかな。」
声の主は黒幕だとあっさりと認めた。
フォルトゥナ達を苦しめていた張本人である。
「だからこの部屋を重要視する理由も分かるだろう?」
「強者を従えてテルイゾラの防衛力とする為の人質がいる部屋だからな。」
「その通り。だから君達みたいな存在は困るのさ。人質で繋ぎ止めている強者達を手放す事になるからね。」
この部屋の人質達が解放されれば強者達を縛る枷が無くなる。
そうなれば報復としてテルイゾラは荒れ果てるだろう。
それなのに黒幕の声色からは焦っている様子が感じられない。
「そうしようとしているのだ。大人しく報復を受けるがいい。」
「そんな事はあってはならないんだよ。テルイゾラは世界中が必要としているオークション島なんだからね。今後もどんな大国とも渡り合える勢力を持ちつつ反映させていくのさ。だから君達には死んでもらうよ。」
声だけなのに殺気が感じられる。
ジル達を逃すつもりは無く、ここで全員殺すつもりだ。
「全員警戒しておけよ。」
「無駄だよ。君達程度では勝てないから。フォルトゥナ、ここまでネズミを連れてきてくれてありがとう。殺しちゃっていいよ。」
「何を言って…。」
「すみません…魔王様…。」
フォルトゥナの微かな呟きが聞こえたが、それの意味する事が分からなかった。
しかし同時にフォルトゥナの手から床へと落ちていく小さな紙を見て自分達が危険なのだと確信する。
「簡易防衛型強化法陣起動!抜刀!」
フォルトゥナが呟くと同時に床に魔法陣が現れる。
そして目にも留まらぬ速さでフォルトゥナが腰の曲剣を抜いてジルに斬り掛かってきた。
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