転生するということ その9(終)
「あ、あぁ……」
「懐かしの……
「故郷だーっ!」
「ギルドだーっ!」
「はっはは……」
テンション爆上がりの私たちを、ちょっと引き気味で見つめるカツヒコさん。テメェのせいだぞ引いてんじゃねぇよ。
でも今は感動と喜びで満たされているので、いちいち突っかかったりはしません。明るい凱旋でギルドのドアを開けました。
あぁ! 恋焦がれたドアベルの音!
「やぁモノノちゃんトニコちゃん久しぶり。ちょっと痩せた?」
「オメェのせいだろクソ髭鬼畜ホースフェイス‼︎‼︎‼︎」
ロビーにて。前言撤回。こいつだけは今回の長旅の倍の時間くらいは罵倒はしないと、収まる気も収まりません。
「私とトニコがどれだけ苦労して……!」
「食べ物は向こうの方がおいしかったです。あと割とどこでも水が手に入る!」
「そうかい! 楽しめたみたいだね! いいね!」
「トニコぉ……」
そうやって甘やかす(?)から、いつまで経ってもオーナーの人間性が改善しないのではないでしょうか。
「記憶は集まったのだね?」
出迎えてくださった冒険者さま製人混みを掻き分け、歩み出てきたのは、今回の元凶その三ガリオさん!
貴様の記憶が散逸するまで殴り倒してやろうか‼︎
「えぇ……! 大変でしたが、なんとかね……!」
精一杯の憎しみオーラを滲ませてみましたが、彼には通じない。
「よし。では早速、記憶を移し、マジマ氏の復旧に取り掛かろう」
「えぇー⁉︎ ちょっとは休ませてくださいよぉ〜!」
「モノノちゃんは休んでていいんだよ? こっちで勝手にやっとくから」
「うるさい黙れオーナー」
「うはは怖っ」
ここまでやってきて結末だけ見れないのも、それはそれで殺生な話。しんどいのを我慢して居残りしましょう。
「さて、まずはフィルターに使った上着が覚えている『死の直前の記憶』を除いてしまって……」
なんかゴチャゴチャやり始めたガリオさん。疲れてるんだから早くしてほしいなぁ。
「できたぞ!」
念じたからかは分かりませんが、意外と早く終わりました。ガリオさん、今度は床に魔法陣を描き始めます。
「モノノちゃんあとで掃除してね」
「おまえの髭をモップにしたろか」
ガタガタ言い合っているうちに、準備を終えたガリオさん。ソファに寝かされているマジマを、その中心へ移動させます。
「さぁみんな、離れるのだ。この前のアワレー氏のように迂闊に近づくと、マジマ氏の記憶が注入されるぞ」
「はぁ⁉︎」
迂闊じゃなくて手違いだったんですけど⁉︎ 抗議する間もなく、魔法陣が光り始めました。
あぁ、これで私とトニコの苦労も報われる……。
でも……
マジマはどうなのでしょうか?
確かに彼は素晴らしい魔力量を秘めているらしいです。あの冷酷冷血なオーナーが、見捨てず手間かけて再生しようとしたほどなのですから。
きっと立派なチート冒険者さまになられて、無双し金も名声もハーレムも思いのまま、成功者の人生を送り、名は後世にまで残り続けるでしょう。
もしくは、ありとあらゆる苦労や面倒ごとから切り離された、毎日が山小屋バカンスのようなスローライフを過ごされるかも。
それはとても幸せなことでしょう。私だって羨ましいと思います。
ただ、
あんなに家族を愛し愛され、それを喜びにしていたマジマタイゾウという男の人生。
その家族たちに会うことはなく……。どころか、あんなに自分を愛してくれた母や妻子との人生をリセットして、なかったことにして。
全て忘れて生きていくことが、彼にとって幸せなのでしょうか?
たとえ幸せだとしても、それは彼という生き方において、いいことなのでしょうか?
お母さんとの約束を、果たしてあげなくていいのでしょうか?
父ができなかった分まで、奥さんに寄り添わなくていいのでしょうか?
まだまだ娘の高校や大学で泣き腫らしたり、いつか家を出たり結婚相手を連れてきて悶絶したりしなくていいのでしょうか?
本当にいいのでしょうか?
複雑な心境がまとまらないうちに、施術は終わったようです。魔法陣の光は消え去り、マジマがゆっくりと……
「……ん?」
目を開きました。どうやら待たせているあいだに腐敗した、とかいうことはない様子。
早速オーナーが近寄ります。
「やぁ。ここは『転生追放……」
「病院ですか?」
「いや、病院じゃなくてね」
「日本語だから日本……いや、顔が白人……。ここはカナダですか?」
「いや、カナダでもなくてね」
「あ、そうだ! 今何日ですか⁉︎ 朝日の誕生日が!」
「ちょっと……」
「急いでいるので帰らせていただきます! 失礼!」
「あのね、帰るってもね、ここ異世界でね」
「伊勢⁉︎ カナダじゃなくて⁉︎ どうして伊勢なんかに⁉︎ 会社に確認しないと!」
「ねぇ……」
「すいません、急いでいますので! 何かお話がございましたら、お手数ですが……! 私の名刺です! こちらの電話番号に!」
「君! 君はもう帰らないんだよ! こちらの世界でチート冒険者として暮らしていくんだ!」
「チー……? いえいえ、帰ります帰ります。娘の誕生日プレゼントも買っておいたんだから」
「……」
「すいませんが出口はどちらに?」
「……カツヒコさん」
「はいよー」
「えぇ……」
こうしてマジマは、目覚めてから五分と経たず、この世界をあとにしましたとさ。
「よかった! よかったねモノノちゃん!」
抱きついてくるトニコ。えぇ、本当によかった。私も心からそう思います。
ただ……
「わ……」
「わ?」
「私の時間返せーーーーーっっっ!!!!!」
『本日の申し送り:返してよ! 私の時間返してよ! モノノ・アワレー』
はぁい、どうなさいました、観測者さん?
え? 自分もそろそろ元の世界に帰る、って?
そうですか、いいと思いますよ! 異世界放浪もいいけど、たまには大切な人と、かけがえない時間をね!
あ、そうだ。『クエスト
よかったら、また来てください。気が向いたらでいいですから。楽しみに待ってますから!
あ、でも急がないと、私は寿退職でもういないかもしれません。なるべく早くね!
あ? 10年は余裕がありそうだ、って? うるせーやい!
ゔゔん。ま、とにかく、ご縁がありましたら、また、ね。
遊びにきたお客人としてでもいいですし、もちろん『ギルドのお客さま』としてでも構いませんよ? どんなクエストでも、即座に解決して差し上げます!
もちろん私のマネジメントで!
なんたってここは、
世界中のチートスキルを持った転生者追放者ばかりを集めた最強の、
『転生追放ギルド』だから!
本作はこれにておしまいです。ここまでお付き合いくださりまして、誠にありがとうございました。
「面白かった。付き合うだけの価値はあった」と思っていただけましたら、☆評価をよろしくお願いいたします。
作者の思い出と『クエスト
チートスキル、生かすも殺すもマネジメント次第 〜転生者追放者を集めた最強ギルドで、パーティー編成担当の受付嬢が思わぬ落とし穴にハマるお話〜 辺理可付加 @chitose1129
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