第512話 ボウガン

「これもアレと同じようなものですよ」


 冨岡は原動機付自転車を指差す。

 科学技術の存在しないこの世界で、原付とバイクの違いを説明するのは難しい。バイク好きには怒られそうな説明だったが、同じようなものとすることが一番手っ取り早かった。

 だが、とどのつまりは単騎での機動力である。

 レボルもそう理解したらしく、既にバイクの操縦を覚えている兵士らに、自ら乗り方を教わり始めた。

 その間、冨岡はバイクに繋いでいた荷車を外し、その中からボウガンを取り出す。


「なんじゃ、それは」


 最初に興味を示したのは、ノノノカだった。

 強化プラスチックと鉄で構成された物々しい雰囲気のソレは、見るからに武器の様相をしている。ボウガン、またはクロスボウ。

 拳銃よりも手に入りやすい物ではあるが、近年新たに銃刀法が改正され、書字も禁止になっている代物である。弓よりも強烈な矢を、弓よりも簡単に放つことが可能な武器だ。

 興味を示した、というよりも武器が放つ独特な殺傷性に、素早く気付いたのがノノノカだったのだろう。


「これはボウガンっていう武器です。簡単にいえば、弓の強化版でしょうか」


 冨岡が説明すると、ノノノカは表情を強張らせ、腕を組んだ。


「・・・・・・武器なぞ持ってくるということは、王弟派を武力で制しようというわけか? じゃがのう、相手の兵は弓や剣、槍どころか魔法も使ってくるぞ。少しばかり弓よりも性能がいいとはいえ、強烈な魔法の前では無力に等しい」


 戦争の勝敗は一人の魔術師が決める。こちらの世界には、そんな言葉がある。

 どれほど訓練した剣士が万人いようと、優れた魔術師が一面を焼き払えば終わる。魔法とはそれほどまでに強大なものだ。

 当然、何度か魔法を目の当たりにしている冨岡も、ボウガンだけで王弟派貴族たちを打ち倒せるとは思っていない。

 ボウガンはまだまだ序章である。

 

「これで攻撃しようとは思ってませんよ」


 冨岡はそう言ってから、ボウガンに矢をセットした。


「それに、王弟派貴族は今やこの国を牛耳っているわけですよね? つまり、正面からぶつかれば、この国の正規軍が全て出てくる。流石に勝てないのはわかってます。けど、相手が何をしてくるかわからない以上、『自衛』の術は必要です。ボウガンと弓の一番の違いは・・・・・・」


 そのまま冨岡はボウガンの先を、数メートル先の木に向ける。


「非力でも強烈な矢が放てること!」


 引き金を引くと、勢いよく矢が飛び出し、瞬きをする間もなく木に突き刺さった。

 ボウガンを放った冨岡は、そのまま振り返り言葉を続ける。


「弱そうに見える人が、突然これを放てば、回避しきれないはずです。例えば、俺やアメリアさんが」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

百億円で異世界に学園作り〜祖父の遺産で勇者・聖女・魔王の子孫たちを育てます〜 澤檸檬 @sawaremon

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ