第511話 少しばかりの勝機

 冨岡率いるバイク隊は、好奇の目に晒されながら学園へと向かった。

 庶民街とはいえ、人目に触れれば、王弟派の貴族にも伝わるだろう。『よくわからない何かに乗った数名が街を走っていた』と。

 アリリシャは、冨岡の背中に極力触れないよう気を遣いながら、体幹の筋力だけでバイクの後部に乗りつつ口を開く。


「このような乗り物が・・・・・・この機動力なら、剣や弓が当たらないどころか、魔法すらも回避できるかもしれません」


 安全を保てる速度で走行しているとはいえ、エンジンと風の音が大きく、彼女の声は目の前の冨岡にすら届かない。


「ん? 何か言いましたか?」


 声自体は聞こえていなかったが、背中に振動を感じ冨岡が聞き返すと、アリリシャは声量を上げて答える。


「いえ! 大したことは!」


 独り言程度なら冨岡には聞こえない、と判断したアリリシャは自分に言い聞かせるように言葉を続けた。


「バイク・・・・・・もちろん、性能自体も凄まじいものではありますが、最も優れた面は王弟派貴族がバイクの存在を知らないこと。しかし、これだけ目立ってしまうと、その優位性は消えたと言ってもいいでしょう。庶民街にも、王弟派の手の者はいるはずですし、明日の朝には知られるはず。もしも、バイクがトミオカ様の『奥の手』なら、この戦いは・・・・・・」


 厳しいものになる。自分自身に言い聞かせるとしても、言葉にしたくはなかったアリリシャは静かに飲み込んだ。

 戦いとは実力を発揮し合う場である。圧倒的強者と弱者が対峙すれば、『概ね』強者が勝利する。

 しかし、その『概ね』を除外しきれない理由が、アリリシャの危惧するところだ。

 もちろん、この場合の強者は王弟派貴族。弱者はこちら側なのだが、彼女の危惧は『少しばかりの勝機』すら失ってしまうのではないか、というものだった。


「情報戦においては、ノノノカ様が一枚上手。しかし、単純な戦力であれば、王弟派が上。数を持っている以上、正当性や正義も王弟派にあるとされてしまう。こちらの勝機は『相手の想像し得ない行動』でしたが・・・・・・バイクの情報を知られてしまう以上、行動に出る機会は今夜しか・・・・・・」


 まだ先の見えない戦いだが、勝利を得るためには今夜、決戦を仕掛けるしかない。

 アリリシャがそう考え、決死の戦いに身を投じる覚悟を決めたところで、バイクは学園の門を潜った。


「あ! トミオカさんだ!」


 どうやらバイクの音が聞こえていたらしく、フィーネが門の近くまで駆け寄って来ていた。

 当然、何の音なのか判断しかねていたので、幼い彼女を守るようにレボルも近くに立っている。


「これは・・・・・・騎乗用の魔物・・・・・・ではないですよね。生命感が存在しない」


 レボルはまじまじとバイクを眺め、ただ驚いていた。

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