第510話 中型バイクの二人乗り
まず冨岡が運んできたのはバイクだった。既に異世界に持ち込んだ原動機付自転車、いわゆる原付ではなくバイク。それも中型バイクと呼ばれる排気量のものである。
原付よりも速く、力強く、大型バイクよりも扱いやすい。そもそも異世界において免許など存在しないのだから、目的に相応しい乗り物を選ぶのは当然だ。
十台のバイクを日本から鏡を通って運び、路地の外で待っている兵士に渡す。
最初こそ、『なんだこれは』と動揺していた兵士たちだったが、冨岡が乗ってみせるとその機動力と利便性に感心するばかりだった。もちろん、バイクという存在自体に疑問やある種畏怖のようなものを抱いてはいただろうが、任務上のことだと割り切り、操作を覚えることに集中し始めた。
戦闘訓練を積み、実戦も経験している兵士だけあって、理解も操作もバイクを始めてみたとは思えないほどの速度で乗りこなし始める。
その間に冨岡はリアカーとそれに載せた荷物を運び入れ、専用の器具でバイクに装着した。
「それじゃあ、これで学園に運んでください。街中では、それほど速度を出さないように気をつつでお願いします。馬車、じゃなくてフォンガ車とは違い、バイクに意思はありません。何かがあっても避けるのは、乗っている人。回避できる速度を維持してください」
冨岡が指示を出すと、アリリシャ部隊の兵士たちはすんなりと聞き入れる。
バイク八台はそれぞれの兵士が運転し、一台は兵士が二人乗り。最後の一台には冨岡が運転し、背中にはアリリシャが乗った。
「それじゃあ、落ちないようにしっかり捕まっていてくださいね」
背中越しに冨岡が言うと、アリリシャは戸惑った様子で答える。
「トミオカ様、運転するなら私が」
背後に座っているだけ、というのはどうにも落ち着かないのだろう。
すると冨岡は振り返らず、首を横に振った。
「バイクなら俺の方が慣れてますから、俺が運転しますよ。まぁ、身体能力的にいえばアリリシャさんの方が圧倒的に上でしょうけど」
「そうではなく、私の所見ではこのバイクという乗り物、凶器にもなり得ます。確か西国の方にそんな戦い方をする国がある、と。ワイバーンを特殊な魔法で操り、敵国の城に突撃させる。そんな戦法です」
「つまり、特攻・・・・・・ですか」
「戦法名まではわかりませんが。ともかく、速度の出る巨体はそれだけで武器になり得る。そして、その反動は大きい。前に乗っている方が、危険度が増すというものです」
アリリシャの言葉は冨岡の身を案じてのもの。
しかし、冨岡は再び首を横に振る。
「だからですよ。剣と魔法の戦いで俺が前に出ても意味はないですけど、こういう時くらい俺が運転します。可能な限り、女性を危険な目に遭わせたくはないですからね」
「お言葉ですが、私は女である前に兵です。戦士です」
「ほら、動きますから。舌を噛まないように、口を閉じてください」
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