第13話:ドラゴン退治に向かいたい

「えーと? 勇者様?」


 俺の尋ねかけに、店主殿は「あー」とわずかに天を仰ぐ。


「あの辺りの村長さんの家族が……えーと、娘さんだっけか? 高ランクの勇者様なんだと。んで、お仲間の勇者様たちと一緒に来てくれることになったってさ」


 俺は眉をひそめることになる。

 これは……マズイか?

 先を越される可能性がコレで出てきたわけだ。


「……どうにも急がねぇとな」


 思わず呟くと、フォルネシアが目つきを鋭くして頷いた。


「そうとも。横取りされては敵わんからな」


 俺もまた頷きを返す。

 ぐぐぅ、と腹の音も返すことになる。

 とにかく稼がないとお腹と背中がひっつきかねないからなぁ。

 これはチャンスなのだ。

 悪徳勇者としての稼ぎを得られるチャンスなのだ。

 ただ、店主殿にとっては預かり知らぬ俺らの内情だからな。


「そんなに困っているなら雇ってやるって言ってんのに……まぁ、アレだ。無理はすんなよ。いつでも来いよ」


 そう人の良い言葉を残して、彼は去っていった。

 では、さて。

 俺たちも行くとしようか。

 

「くくく……楽しみだな、フォルネシア」


「おうとも。雑草を家畜と争うのも飽きたからのぉ」


 俺はもちろん頷きだ。

 そうだな。

 アレは本当にもう……なんか悲しかったなぁ。

 よって、いざ出発だ。

 目指せ、悪徳。

 目指せ、文化的な食生活。

 具体的な場所は聞きそこねたが、そこらの通りがかりにでも聞けばいいだろうかね?

 とにかくとして、俺たちは街の出口を……って、ぐべ。


「や、ヤナっ!?」


 フォルネシアが俺の名を叫んだが、原因は俺の様子にあるだろう。

 背中にドーン! と衝撃があって、ベターン! と石畳と仲良くなることになってしまったのだ。

 あ、アカン。

 腹が減りすぎて、咄嗟とっさに手を突くことも出来なかった。


(いたい)


 なんか窮状きゅうじょうと合わさって妙に物悲しい気分になってしまったのだが、いやうん。

 なんで俺はこんな目に会ってるんだ?

 見上げるとすぐに理由は分かった。

 えーと、俺たち系かな?

 やたらと目つきの悪い青年たちを俺は目にすることになったのだ。

 数えて3人だが、傭兵か何かなのか。

 頑丈そうな旅装束に身をまとい、それぞれ腰に長剣を差している。

 しかしまぁ、目つき並に態度悪いよな。

 彼らは俺を見下ろして「ちっ」と舌打ちをもらした。


「どけっつったろうが!! 気をつけとけ!!」


 聞こえなかったような気はするのだが、反論する間も無かった。

 柄の悪い青年たちは走り去っていった。

 人探しの最中なのかね?

 ふざけんな、とか。

 どこ行きやがった、とか。

 そんな発言を漏らしながらにどこぞへと消えていった。


「お、おい、ヤナ? 大丈夫か?」


 心配を示しつつに、フォルネシアは俺に手を差し出してくれた。

 俺は「悪いな」と礼を言って、手を借りる。

 幸い体に痛むところは無い。

 無事に立ち上がることは出来たのだが、ふーむ?


「なんなんだ、アイツら?」


 疑問の思いは湧いて出てくるのだった。

 フォルネシアは「さぁ?」と軽く首をかしげる。


「柄の悪い連中ではあったな。若い傭兵といったところか?」


「まぁ、そんなところだろうな。ただ……服装っつーか装備がな?」


「うむ。やけに上等だったな」


 ちんぴら傭兵って雰囲気しかなかったのだが、それに反して装備は良いもんだったよなぁ。


 旅装束にしても、所々をなめし革で補強した上等なこしらえだったし。

 んで、長剣な。

 柄にしても鞘にしても、精緻せいちな飾り細工の施されたものだった。

 この辺りの傭兵が持てるようなものではまったく無いだろう。

 

「金回りの良い裏稼業の連中ってとこかね?」


「しつけの悪いどこぞの貴族のボンボンかも知れんな」


 ともあれ、うん。

 俺はフォルネシアと見つめ合うことになる。


「……なんか追ってるっぽかったよな?」


「……そうじゃな」


「……なんか被害者っぽい人がいるのかもな?」


「……かも知れんなぁ」


 今度は頷きだった。

 俺はフォルネシアと力強く頷きを交わすことになる。


「よ、よし! 行くか!」


「そ、そうじゃな! うむ!」


 なんかね、ちょっと嫌な予感がするからね。

 なんか厄介事に巻き込まれそうな予感がプンプンするからね。

 いざ、ドラゴン退治なのだ。

 ドラゴンの死骸を独占して、村人たちに恨まれながらに豪遊三昧ごうゆうざんまいなのだ。

 たまには青臭くないご飯を美味しくいただきたいのだ。


 ということで、いざ出発。

 お馬さんと戦わずにすむ未来が俺たちを待っている──っ!! って、


「んが」


 俺は軽くうめくことになった。

 何故って、背中に衝撃を受けたためだ。

 しかしまぁ、うん。

 冷や汗ですね。

 なんかね、すげぇ嫌な予感がするのだ。

 俺はおそるおそる背後に振り返る。

 そこには……うわーお。


 いたのは女性だ。

 年は20には届いていないぐらいか?

 まぁ、綺麗な子だった。

 艷やかな銀糸の長髪をして、瞳には深い群青の色がある。

 美を競っている王侯貴族の娘さんたちの中にも、こんな澄んで美しい子はまずいないんじゃないか?


 ただ、正直その辺りはどうでも良いよなぁ。

 服装だ。

 気になるのは服装だった。

 品の良い旅装束に身を包んでいるのだが、そこは良い。

 ただ、首元である。

 なんかあるね。

 首輪。

 オシャレなチョーカーとかじゃないね。

 複雑な文様のほどこされたそれは……なんか見覚えあるよなぁ。


(奴隷の首輪……か?)

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その悪徳勇者、あっまあま過ぎて結局善行を積み上げてしまう。 はねまる @hanemaru333

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