ささえて

灯村秋夜(とうむら・しゅうや)

 

 霊の話なら、俺もあるな。いや、持ち寄った話から順繰りに出していく都合上さ、文脈とか守るだろ? いまそういう雰囲気じゃないよとか言われたらへこむじゃん。どっちにしろ、前置きとか長めになるわけでさ。まあ、転換点ってことで、ありがとな。


 俺が大学入ったときのオカルトサークルって、常駐メンバー少なめだったんだよ。その理由っていうのが、あちこちに取材に行ってるからなんだ。メンバーの数自体がよくわかってないから、誰が正式なメンバーなのか、もしや行方不明なのかとか……幽霊部員ならぬヤバい部員も、さっき話したみたいなのがいたとか、まあな。ちょっと問題はあったよ。

 ただ、大学側も詳しく調査する気はないみたいだった。ちょくちょく増えたり減ったりしてる理由が謎で、在籍してるのが人間かどうかも分からない――とかさ。わりとガチな方のアンタッチャブルなサークルらしい。それでいて会報は出すし、寄稿するOB・OGもいるしで、実態があるんだかないんだか……今ここにいるメンバーも、ネタ披露と朗読しに来た文芸部とか、興味本位でネタ持ってきたやつとかだろ? 俺以外にオカルトサークル所属のやつっているのかな。

 ごめんごめん、話すから。俺が大学入ったときの会長、すっげぇ美人で、しかもめちゃくちゃ活動的でさ。どこから旅費出てんだろって思うくらい、全国飛び回ってネタ集めしまくってたんだ。本職の記者より真面目にやってたんじゃねえかな? 俺は近場に行くときだけ付き合ったり、日付の整理だけ手伝ったり、くらいだった。いやいや、あの人に付いていくのは無理だって……登山とか新幹線とかフェリーとか、旅費だけでも死ぬっつうの。

 いちおう大学が開いてる時間には帰ってきてたから、その日も六時限目が終わったあたりかな、そろそろ飲み行こうぜってお誘いが来るくらいのタイミングだった。また取材に出かけてた会長が、「いやぁいいものを見たよー!」ってご機嫌で帰ってきたんだ。■■ってところの、伝統的な家の改築を見に行ったんだったかな。民俗学部だったからな、会長。

 まあ、そうよな。単純に歴史的価値があったってだけじゃなかったんだ。会長って霊が見える人だから、けっこうな頻度で出くわしてたらしいんだけど……そのときにも、ものすごく貴重なものを見たらしくてな。前向きな霊、なんだと。写真も撮ってきてくれたよ。あの人の撮る写真、マジで映るからなぁ……


 俺も古い木造家屋とか見たことないからわかんないんだけどさ、大黒柱ってのがあるんだってな。家の中心にある、いちばんぶっとい支え的な? ■■にはちょっと変わった信仰があって、その大黒柱の下にくっそデカい石を埋めるらしいんだ。インドとかあっちだと、宝石の入った石とかなんだとさ。品質はクズ石なんだろうけど、あっちでいう地鎮祭みたいなもんなんじゃないのか? そういう風習が、なんかあるんだよな。新しい建物を建てるときは、基礎工事に組み込んで必ずやってるらしい。

 会長が行ったその家は、季節外れの火事で離れが燃えちまってて、柱の幽霊……?がまだ残ってたらしい。あの人の言い方だと意味分かんねえよな。でも、写真を見てちょっとわかった気がした。擬人化っつうほどじゃないけど、人がまっすぐ突っ張った姿勢になったとこを、思いっきり引き延ばしたみたいな形しててさ。家の守護霊って感じかな? にしちゃ不気味な形してたけど、人間の基準で測るのもよくないか。

 離れの改築が進むたび、柱はにこにこ笑顔になっていって、火事の痕跡もだいたい消えたかなってときには、もう満面の笑みになってたんだとさ。なんだいい話じゃないかって思ったし、これが「前向きな霊」なんだなって思って、会長との話は終わった。でも、怖いのはそこからだったんだ。会長が撮った、■■を山の上から見た景色の写真を見たんだけどさ……な、これ。


 村中に真っ黒い柱が立ってて、なんかおかしいなって思ってさ。地形とか調べてみたんだよ。そうしたらさ、■■ってびっくりするくらい大きい河が流れてるんだよな。思っきし谷あいにあって、河がちょっと荒れたらどうなってもおかしくない土地柄なんだよ、ここ。伝統がある土地だとか言ってるけど、人が住めるような場所じゃないんだ。

 それにな、ここ……苗字がめちゃくちゃ多いんだって聞いた。昔から、大量の人口が流入し続けてるんだよ。こんな土地にだぜ? 米どころだっていう理由はわかるんだ、山から栄養が流れ着く場所だから、そうなるに決まってる。ただ、この条件じゃぜったい無理だな。もうちょっと下流になるか、もう少し河から離れるか……どっちでもない。

 どうやって繫栄したのか、村を維持したのか、それになぜ人口が流入し続けたのか。その答えが、たぶんこの柱の群れなんだろうな。石を埋めるなんて、よくもそんな嘘っぱち言えたもんだよなあ。何考えてんだろうな、マジで?


 いや、そうじゃねーよ。

 笑ってんだぞ、これ全部。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

ささえて 灯村秋夜(とうむら・しゅうや) @Nou8-Cal7a

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ