第15話 シエスタ島

 ノースアイランド諸島のマーシャル島を出て、第二島と呼ばれるシエスタ島に移動した。

 マーシャル島が産業の町というならシエスタ島は観光の中心地といえる。


 まずは町に行くと壺がずらっと並んでいるのが目に入る。

 島の特産品にシエスタオレンジという柑橘類がある。

 この果物を使用したシエスタ酢という黒酢が特産品だった。


「壺ずらっと」

「だよねぇ」

「これ、全部お酢なんですか?」

「うん。すごいでしょ。お酢のうち、本土でもかなりのシェアを誇ってるんだよ」

「へぇ」

「ほら、ノースポートで魚のお酢料理だったじゃない? あれここのお酢」

「あぁありました、ありましたね」


 ということで村の集落ではお酢屋さんが沢山あった。

 お酢を仕入れる。

 当然、本土で買うよりずっと安い。

 どこへ行っても調味料は売れるからね。

 この島ではこのお酢のために容器として壺も生産しているくらいだ。


「でこっちがお酒屋さん。お酢屋さんとお酒屋さんって関連産業だから。知る人ぞ知る、シエスタ酒」

「へぇ」


 私たちは厳密にはまだ未成年なので、お酒はいい顔はされない。

 二十歳以上という推奨がある。まあ推奨であって決まりではなんだけど。

 お祝い事とかでは普通にお酒が出されることもある。


 馬車を借りてお馬さんパカパカと移動する。

 さて次は南東の先端だ。

 ここは少し岬が飛び出ている。崖の岬の上には白亜の灯台があった。


「ここが有名なシエスタ灯台」

「あぁぁ聞いたことがあります」

「うん。ここで朝日を眺めると永遠の愛を誓えるとかいう」

「そうです。そんな噂でした」


 今はもう昼を過ぎているが、観光客がぽつぽついる。

 船でしか観光で来れないというのに、そこそこ旅人がいるのだ。

 島の中では観光島だけあってレンタル馬車などの制度も充実していて移動が便利だった。


 灯台の中は狭いけれど階段があり、上まで登れる。

 現役の灯台だ。

 上までくると回転式のサーチライトが間近に見える。

 巨大な魔石が嵌められた明かりははるか遠くまで届くという。


「これで船旅がずっと楽になったんだ」

「そうなんですね」

「昔は難破とかもあったらしい」

「ここ、崖でもすんね」

「そういうこと」


 長距離航路では、西からも東からもシエスタ灯台が見えたら南下してノースポートに向かうルートを通ることが多い。


 さて次、行きますかね。

 島をぐるっと回る。

 北側へ行くと、そこには小さいながらも温泉街があった。

 数軒の温泉宿が軒を連ねている。


「うわっほい。きーもーちーいー」

「あはは、ラミルさん。お湯いいですね」

「でしょ、でしょ。やっぱ温泉に限る」


 露天風呂の温泉にはサルも入りに来る。おサルさんと一緒にシエスタ山を眺めながらお湯に浸かる。

 北側斜面は手付かずの自然があり、緑の森が広がっていた。

 ここではキノコや山菜など野山の恵みもたくさん採れる。


「うまっ、うまっ」

「美味しいです」


 その山菜、キノコなどの天ぷらをいただいた。

 年間を通して涼しいらしく、一年中、何らかの山菜が収穫できるそうだ。

 わずかばかり野菜畑もあって、もちろん野菜も美味しい。

 シエスタ大根という大型のカブがあって、それのスープや漬物も絶品だった。

 大きくてシャキッとしていて食べ応えもある。


 さてさらに反時計回りにぐるっと回って、南西に到着した。

 南西にも岬があった、名前は黄昏岬。


「すごい、夕日。綺麗……」

「うん」


 モーレアちゃんも感激していた。

 朝日を見るのは難しいが、島一周コースをすると大体この岬で夕日が拝める。

 ということでここは絶景スポットとして有名だった。

 南東のシエスタ岬とは別だけど、こちらの黄昏岬のほうが気軽に絶景を楽しめるだけあって人気だ。

 岬にはほぼ一年中、複数種類のスイセン科の花が群生していて、目を楽しませてくれる。

 この南西の黄昏岬には一軒の教会、こちらも黄昏教会が建っていて、観光地になっていた。

 教会でお布施をして立派なステンドグラスを見て戻ってくる。

 その教会の脇に有名な露店があった。


「シャーベットどうですかシャーベット」

「あ、ください」


 シエスタオレンジのアイスシャーベットをいただく。

 春の季節、涼しい風が気持ちいい。

 海の夕陽を見ながらいただく、シャーベットは格別美味しかった。

 魔術師さんが氷にしていて、ここの名物だそうだ。


 南側の集落に戻ってくる。

 今日はここで一泊していく。

 何軒か宿屋があった。島の場合、所有の馬車もないので野宿もしにくい。

 みんな宿に泊まるので、数軒あるのだ。


 新鮮なお魚や貝類は美味しい。

 島では大きなサザエ、アワビが今でも採れる。

 特にこの丸ごと焼いたアワビが美味しい。

 それから羊。シエスタ羊といってブランド化されている。

 羊肉を焼いてシエスタ酢を使った漬けダレで食べると抜群に美味しい。


「美味しいですぅ、ラミルさん、この島最高」

「うんうん。美味しいっ」


 私たちは腹八分目などの言ってられず、限界まで食べてしまった。

 げぷぅ。もう食べられない。

 キングサイズのダブルベッドに二人で横になる。

 おやすみなさい。また明日。

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