第12話 王の森

 王都エントリアの城門。

 ここには馬車や馬、人々が列をなしていた。

 そしてラーニャという鳥馬も列を作っている。


 ●ラーニャ

 魔物、魔鳥。大型の陸鳥の一種。

 翼はあるものの空を飛ぶことはできない。

 お腹は白く翼は黒い。首と足が長い。

 馬を超えるスピードで走ることができる。

 家畜化されており、こうして城塞都市では列を見ることができる。

 ただし馬よりは力がないので、重い物を持つのには向いていなかった。

 マジックバッグを持った人が乗って移動するのに適している。

 また薬草など比較的軽いが高価なものを積むこともある。


 今まさに十頭余りのラーニャが城門を出ていくところだった。

 先頭と末尾にはマジックバッグを持った人間が乗り込んでいる。

 間のラーニャにはヒール草が積まれていて、新鮮なうちに目的地まで運ぶのだろう。

 ここからだと港町ノースポートから島々へ運ぶルートだと思われた。


「ラーニャですね、ラーニャ」

「ええ、馬鳥ちゃんだね」

「はいっ、みんなお仕事でえらいです」


 なお容姿は南大陸にいるといわれるダチョウという鳥に似ているらしい。

 問題はダチョウのほうを見たことがないので、はっきりは言えない。


「んじゃ私たちも城門を通ろうか」

「はい」

「貴族特権、行使」

「あはは」


 門番に声を掛けて通る。

 今回は馬車を宿屋に置いてきたまま、徒歩だ。


 装備もいつものワンピースみたいな服ではなく、鎧をつけて冒険者風の格好をしている。


「王の森へ」

「すぐそこですね」

「うん」


 城塞都市の周りは建材として木を切ってしまうことが多い。

 しかし森にしかない資源というものも多い。

 元々、森などの資源は領主の所有物で、一般人はそれを許可を貰って採取や伐採をしているにすぎない。

 そこで王都近郊にある森の一部を数百年前から保護森林としていた。

 そこだけ今でも木が残っていて王様の保護下にあるので「王の森」と呼ばれる。

 このような森はお隣ミッドランド王国、王都ミッドシルトでも見られる。


 木を切ることは御法度だけれど、キノコや薬草などを採取するのは問題ない。

 基本的には冒険者ギルドで許可を取ることになっている。


 そのまま森へ入っていく。

 内部はほどよく枝があり日陰が広がっている。

 木漏れ日があって、暗いと言うほどではない。

 このすがすがしい春の日にはちょうどいい感じの陽気だった。


「さてまずはポイズン・ファンガスだね」

「キノコちゃんですぅ」


 ●ポイズン・ファンガス

 キノコの魔物。

 一メートル前後の巨大なキノコに手足が生えたような容姿をしている。

 色は紫やピンク色が多いが、たまに変わった色の個体の目撃例もある。

 自立して移動できる。

 名前の通り、本種は毒攻撃を得意としている。

 戦闘の際は解毒剤を持ち歩くことを推奨する。

 身は食べられない。

 毒胞子は一部の解毒剤として利用される。


 剣で攻撃して倒しておく。

 胞子を回収して保存する。これも研究用だ。


 ●ミニチュア・ボア

 魔獣の一種。小イノシシ。

 本種はほとんどの魔物が大型化するのに対して小さい体に進化したらしい。

 イノシシ型だけれど大人でもそれほど大きくならない。

 王の森では、小さな森で大型の魔物が姿を消した中、都市部であるのに生き残っている。

 色は茶色。小さいながら牙もある。

 かなりすばしっこくて捕まえるのは難しい。

 なるほど生き残ってきただけはある。


 この森にゴブリンはいない。

 その昔、有害魔物に認定され、討伐隊が組まれて絶滅に追い込んだかららしい。


「コボルトさんです」

「おおぉ、いたいた」


 ●コボルト

 魔物。人型の中では小型のモンスター。

 犬顔をしているが手足や体の形は人間に近い。

 二足歩行をして手で物を持つ。

 体毛が生えていて色はだいたい紺色。

 人間の言葉を理解するほどではないがイヌよりは知能が高い。

 コボルトの犬歯はよく商人のお守りとして加工される。

 毛皮は立派で衣類として流通している。

 王の森では数が少ないもののなんとか生き残っている。

 半保護生物でむやみに討伐しないようにお触れが出ていた。

 毛皮利用のため管理下で討伐数を調整して資源確保をしている。


 他にも以前紹介したブルースライム、ホーンラビットなどがいる。

 またハーピーなども巣をつくることがある。


「忘れていたけど、これも魔物だね、一応」

「へえ、これあれですよね?」

「うん」


 ●マンドラゴラ

 植物系魔物。

 引き抜くと悲鳴を上げ、引き抜いた人が悲鳴を聞くと死んでしまうとされる。

 迷信かどうかは知らないが、自分の命を懸けて確かめようとする人はいない。

 ダイコンやニンジンに似ていて、根が太い。

 その根は一見人型で、目口がついているらしい。

 専門ではないので不明だが、錬金術の材料の一つとされるようだ。


 怖いという噂が独り歩きしている。

 実際に死亡例があるかどうかも含めて、半分怪しいなというのが正直なところだ。


 普通に食べられる薬草やキノコも自生している。

 それらは採取されて冒険者ギルドなどを通して販売される。


 さて一通り見学したので王都に戻ろう。

 少し横道をして、港町ノースポートへ行こうと思う。

 海を見に行くんだ。海だよ、海。


 東西に街道を移動しているとあまり海まで見る機会がない。

 今回は海の魔物も見ようと思っている。


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