第13話 港町ノースポート
エントリ川の河川敷の潮騒街道を北上する。
王都から一日、途中で村に寄り昼休憩をして夕方には港町ノースポートに到着した。
「ノースポートですぅ」
「そうね。港町だねぇ」
「船がいっぱい見えますね」
町自体はそれほど大きくはない。
しかし町よりも港が大きかった。
ここは漁港ではなく、交易港なのだった。
外国やノースアイランド諸島からくる荷物を大型船から積み下ろして、小型の船に乗せ換える。
そうして川を上って、マルンバ町や王都エントリアへと届ける中継地点だった。
倉庫はあるものの一次置き場なのでそれほど大きくはない。
近年、マルンバ町の貿易が拡大しているのに伴って港も拡張工事が続いていた。
「帆船が大きい」
「だねぇ」
マストはどれくらい高いのかな。
かなり上まである。
帆を張ったらそれはみごとな帆船なのだろう。
今は停泊しているから帆が畳まれている。
基本的には船は朝に出港する決まりらしい。
もちろん海産物も豊富だった。
「干物屋さんがありますぅ」
「うんうん、お魚のいっぱいだね」
アジ、サバ、ニシンなどの近海の魚が開きにされてずらっと干されていた。
これらは近海の海で取れたものをここノースポートへ運んできてここで加工される。
船の中にはノースアイランド諸島所属の物も多いけれど、水揚げはこっちで行うそうだ。
そうしてお金や物資を積んで家のある島へ戻っていく。
ネコが魚の山に混ざっていた異なる種類のお魚を貰って食べていた。
たくさん魚を取ると網には違う魚も混ざっている。
ある程度までは仕分けをするのだけど、どうしても仕分けしきれないものが出てくる。
それを魚屋さんが選別して、そうして混ざった変な魚はネコちゃんたちの餌となった。
そんな光景があちこちで見られる。
また邪魔にならない隅の方や港の先端で釣りをしている人たちもいる。
特に港の先端部は人気で何人もの釣り人が集まっていた。
「今、コハダが取れるんだ」
「へぇ」
「回遊してくるんだよ」
「なるほど」
しばらく見ていたら、群れが通過したのだろう、一斉に竿を上げる。
あっという間に次々魚が取れて、バケツに溜まっていく。
この人たちはこれが遊びなんじゃなくて仕事らしく、みんなそれなりに真剣だった。
ただおじいさんが多くて、現役を引退した後の仕事という感じ。
漁協組合から年金が出るのでそこまで稼ぐ必要はないらしい。
昔は船に乗り込んで網を引いていたそうだ。
外国の荷物はほとんどここをスルーしてマルンバ町へ行ってしまうので、私たちの出番はほとんどなかった。
宿に泊まって、魚料理を食べる。
魚の揚げ物の酢掛けがなかなか美味しい。
それから魚の炙りのマリネ。
魚のすり身のスープ。
魚とお酢の相性は抜群だ。
スープも海鮮の出汁が出ていて、とても美味でした。
この港町にもジャイアント族さんが何人かいて、荷物を次々と運んでいた。
それを上回る数の犬耳の獣人ちゃんたちがせわしなく荷物を移動させていたのが印象的だった。
亜人種の奴隷は別に珍しくはない。
数は少ないけれどもちろんヒューマンの奴隷さんもいて一緒に働いていた。
力仕事は大変だ。こういう場合は人海戦術が大事なのだろう。
人数が必要なようで、人をかき集めたようだった。
実はノースポートからはマルンバ町、王都エントリア、ノースアイランド諸島方面だけでなく、隣国ミッドランド王国、王都ミッドシルトへの荷物の中継点でもある。
エントリ川とは別のミルドリード川があって、一度海に出てからそちらの川を溯上するルートがある。
ミルドリード川の河口にも同じような拠点を作ろうという動きは昔あったのだけど、けっきょく有耶無耶になって今でも隣国のエントライオン王国の港町ノースポートを経由している。
役場に見学に行く。ここにはちょっとした展示場がある。
「おおぉぉ、角がある。イッカク?」
「そそ。これがイッカクの角。時価、金貨、うん枚」
「お高いんですね」
「だね」
役場のすぐ前の壁の上の方にはイッカクの角がデーンと飾られていた。
他には棚に乾燥したヒトデ、魚の干物各種、魚拓などが並んでいる。
ここだけロープが張られていて、盗難防止の魔道具も置いてあるのが見える。
この魔道具、柔らかいバリアみたいな感じの効果があるらしい。
どれくらい有効なのかは知らないけど、ないよりはマシなのだろう。
●イッカク
魔獣。海洋哺乳類型の魔獣。魚ではない。
大きくて丸いウィンナーみたいな体をしている。
近縁種は鯨やイルカだろうか。
口元から伸びる角は数メートルもあり巨大だ。
ユニコーンの角と同一視されるため、教会としても注目していて、そのお値段は相当のものだという話だけど、実際には流通することがなく、闇市などで取引されるので、値段は不明。
イッカク自体の狩猟は教会が禁止している。
沖の方へ行くと、しばしば目撃例がある。
イッカク。一度は見てみたい魔獣の一つだ。
角がある以上、実在していることは確定している。
ちょっとロマンを感じつつ、役場を後にした。
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