第16話 エリス島
今日は定期船で第三島エリス島へと渡る。
マーシャル島、シエスタ島、エリス島間には定期航路があって、往来が容易だ。助かる。
本土との定期船は行きに乗ってきた中型の帆船が往来している。
どちらも船は一隻ではなくて何隻かがぐるぐるしている。
これは万が一の時のバックアップ体制が取れているのだ。ミッドランド王国からも補助金が出ているそうだ。
「今日はエリス島だね」
「うん」
シエスタ島はよくある火山島で、山型の島をしていた。
シエスタ山の頂上にはカルデラ火口がある。
今日の島はお隣、エリス島だった。
他にも、バルード島、ミーエント島、ベリードライ島などの無人島がある。
いくつかの島には昔人が住んでいたんだけど、有人三島に集約されたそうだ。
無人島には管理人が定期的に見に行く以外は人が住んでいない。
それでエリス島はシエスタ島と異なっていて、低い山があるだけで後は平野が広がっている。
エリス島は人口は多くはないけど、畑の面積はシエスタ島より広いらしい。
「はい、上陸」
「見て回りましょう」
まず港がある中心の集落がある。
ここから離れると家がぽつぽつあるだけだった。
エリス島の畑は特徴的な輪作だった。
ライ麦または小麦、シエスタ大根、ジャガイモの輪作だ。
三種類を順番に栽培している。
区画整理されており、ひとつひとつの農地が広くて栽培が楽そうだった。
牛や馬を使った耕す器具などを使って効率的に農作業をしているという。
それからお家。
様式が他の島とも違って、まず屋根瓦が茶色だ。
本土では赤茶のオレンジ系が多いので、色が違うだけでも新鮮だ。
それから必ず屋根のてっぺんに風見鶏が立っている。
これは村の風習らしい。
島の食堂でお昼ご飯を食べる。
ジャガイモを千切りにして焼いて固めた料理を食べた。
「うまっ、ジャガイモ、うまっ」
塩、胡椒で味付けされたジャガイモ焼き。
素朴ながら、かなり美味しい。
「これに魚醤を掛けるんですよ」
「へぇ」
島特産だという魚醤をちょろっとかけて食べるとこれまた美味しい。
なるほど、これは村人が自慢するのもわかる気がする。
魚料理も出てくる。
砂糖と魚醤と酢、酒で魚を煮たものだった。
魚丸ごと入っている。
身がほくほくして美味しい。濃い味付けもなかなかいい。
それにしても砂糖がある。
「これ、食べな」
「ありがとう」
くれたのはサトイモの煮っころがしだった。
これも魚醤ベースで煮てあり、しょっぱくて美味しい。
「あの煮物の砂糖なんですけど」
「あぁこれ、ビートだよビート」
砂糖大根ビート。存在は知っているし聞いたことはある。
「島の錬金術師様がビートを煮詰めて砂糖にしてくれるんだ」
「へぇ」
「サトウキビじゃないけど、甘いだろう」
「はい」
そういえばシエスタオレンジのアイスシャーベットも甘かったけど、おそらくこの砂糖が使われているのだろう。
島どうしであれば流通もある。
残念なのはどうやら流通量が多くなくて、いわゆる自家用ということだった。
大量生産してるなら、莫大な利益になる。
喉をごくりと鳴らす。
「甘いの好きならこれなんかどうじゃ」
そういって小麦のお団子をごちそうになった。
たっぷりの砂糖を使った甘酢タレが格別おいしい。
「シーサーペントとか出るかもしれないだよ」
「ほう、その話聞かせてもらっても?」
「もちろん。ほら、あれ」
食堂の壁の高いところに油絵が並んでいる。
どれも海の魔物に関する絵だと気がついた。
●シーサーペント
海竜。蛇竜。ウミヘビの魔物。
巨大なヘビの魔物だ。十メートルから大きいもので百メートルくらいになると言われている。
そんな大きくなるのだろうか疑問ではあるが、伝説では巨大な帆船をぐるぐる巻きにすると書かれているので、大きさについてはその通りなのだろう。
体表は青色が多く、お腹側が白い。
亜竜の一種とされる。
主に魚を主食としているようだ。
サーペント系は毒を持っている種類も多いとされる。
陸生の普通のサーペントもいる。
サーペントとシーサーペントが近縁種であるかはわかっていない。
「他にもこっちはアスピドケロン。島亀」
「そうですね」
●アスピドケロン
海竜。蛇竜。ウミヘビガメの魔物。
島のような大きさと言われている。
実際に甲羅に木や草が生えていて、島と見間違うようなサイズのものがいると言われている。
ヘビガメというように首が長い。体長も百メートル以上はあると考えられる。
イメージ的にはもう少し南の海での伝説が多いと思う。
「あとはクラーケン」
「ああぁクラーケンは聞いたことがあります」
「まあ有名どころだね」
●クラーケン
魔物。巨大イカ。
こちらも巨大な帆船を絡めとるほどの大きさの触手があるとされる。
とても大きく全体の形は不明確だ。
しかしイカだという伝説がある。
他にも触手だとかタコではないかという説もあるにはある。
色はイカの色に準じて、白や茶色を連想させる。
触手には吸盤が並んでいる。
外洋に出て嵐に遭うと遭遇するという逸話が聞かれる。
エリス島には、道端に島の芸術家がいるのか、今登場したような魔物の像がいくつか置いてあったのを見た。
伝承などは文字、言語として残っているものが多いので、このような立体物で見られる機会はあまりなくて非常に興味深い。
せっかくなどで春の陽気の下、スケッチをしてメモしておく。
さて、畑の隅を見ると、赤い丸いものが動いている。
「あの赤いの……」
「うん、あれがノースアイランド諸島の固有種、レッドスライムだね」
「あ、あれ、スライムなんですか?」
「うん」
真っ赤なスライムはなんだか普段見る青いスライムと違って非常に目立つ。
これは敵が少ない離れ島特有の進化なのだろう。
●レッドスライム
あ、説明は右の通り。
これも後でちゃんとメモしておこう。
ノースアイランド諸島ではトイレスライムを含めて青いスライムはいない。
このような地域特有の色、突然変異はしばしば見られる。
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「第二章 エントリアと潮騒街道 」編はここまでです。
のんびりと事件も起きず進んできていますが、ちょっとだけお休みをいただきます。
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ここまで、読んでくださり、ありがとうございました。
異世界バイヤー。放浪旅商人の少女、スローライフと魔物研究家。 滝川 海老郎 @syuribox
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