第7話 農村マルード村
農村マルード村に到着した。距離の関係でまだ日が高い。
家々はここに密集していて、周りには広大な麦畑が広がっている。
ここは平野で麦の一大栽培地だった。
村には倉庫がいくつもある。
魔法袋を買えば倉庫も減らせるのだろうけど、こっちのほうが安上がりなのだろう。
「長閑な村ですね」
「うん。見るものもあんまりないね」
「そうですね」
商店にも顔を出したのだけど、王都からもほど近いとあってそれほど困ってはいないようだった。
別に困りごとを解決する謎の美少女をやっているつもりはないけど。
何もないとそれはそれで肩透かしではある。
商店は二軒。ひとつは小麦問屋だった。専門店だ。これだけの小麦をほとんど一手に引き受けている。
倉庫も所有していて、なかなかに規模が大きい。
村のサイズには不釣り合いだけど、儲かっていそうだ。
もう一つは王都の商会の販売支店があって、こちらはいろいろな製品をまんべんなく扱っているらしい。
ほとんどが王都から輸入しているけれど、村人は麦袋の販売で儲かっているのでお金があり、様々な物を買うだけの余裕があった。
こうして麦を売り物品を購入してといい感じに循環している。
いい村だ。
お金がきちんと回っている村は人々の間に活気があって素晴らしい。
これが売れるだけ売れるのに買えるものがないとか、売れるものがなくて生きていくのにもやっとの村とかだと悲壮感が漂っていて悲しいのだ。
「ニワトリさんが歩いてますよ」
「お、おう。放し飼いかぁ」
「ですよね。コケコケ」
ミーレアちゃんがニワトリを追いかけながら鳴きまねをして遊んでいる。
なかなかお茶目なこともするものだ。
●ニワトリ
中型の魔鳥。羽根は退化していてほとんど飛べない。
薄茶色か白い色をしている。赤いトサカが特徴的だ。
毎日卵を産む性質があり、重宝される。
また主にオス鳥は成長したら解体され食肉に加工される。
唐揚げや鶏肉スープ、麦粥に入れたりすると美味しい。
肉質は比較的淡泊だ。脂身は少ない。皮には脂がのっている。
ニワトリは魔物というよりは益鳥で、ペットではないが家畜動物だ。
この村ではあちこちで飼っているようで、なぜか路上にも数羽が歩いている。
どれが誰の鳥とか分からないのではないだろうか。
まあたくさん飼っていて、正確な数は把握していないという可能性が高い。
麦で潤っているので、細かいことは気にしないのだろう。
麦なのだけど、ほとんどは脱穀した状態の麦粒の形で麻袋に詰められる。
当たり前だけど粉にしてしまうと隙間からこぼれてしまう恐れがある。
そのため小麦粉の状態での流通は少なくて、基本的に村や町に着いてから粉ひきをするという文化になっている。
だから大体の村には水車小屋があり、そこが粉ひき所だった。
「それで麦でしたっけ」
「うん。私の五個のバッグの内、一袋分は全部麦袋が詰まってるんだ」
「それは、そういう御趣味で?」
「まさか」
飢饉や飢餓が発生したり、村単位で貧乏だったりと、世界中を旅をしているとたまに出会う。
そういうときのために、馬車一台分は小麦袋にしているのだ。
万が一マジックバッグを紛失したりすることも考えて中身は分散させて入れてある。
すぐ使えるように小麦粉の革袋も十袋くらい用意してある。
それから水の大樽が二個。ワインの大樽が一個。エールの大樽も一個。
これは渇水用でもあるし、それから祭りとかをしていて緊急的に必要になることがあるんだ。
「こっちにはヒツジさんがいます」
「おお。もっこもこだね」
●ヒツジ
ヤギの家畜化動物。中型の魔獣。草食動物。
比較的おとなしい。ヤギよりも大きくて太っている。
カタツムリのような渦巻き状の角を持つ。
肉は食用にされる。ジンギスカンという焼き料理が主流だろうか。
毛はモコモコで愛好者も多い。毛の色は白が主流だ。
羊毛は編んでセーターやマフラーなどにする。
羊飼いが群れ単位で飼育をする。
ヒツジはモコモコしていて可愛いから好きだ。
夜寝るときにヒツジを数えると眠れるという言い伝えがある。
柵を一匹ずつ跳んで「ヒツジが一匹。ヒツジが二匹」って具合だ。
私は逆にヒツジさんにワクワクして眠れなくなってしまうと思う。
ここの宿屋で今日は一泊しよう。
「ご飯なんでしょうね」
「うん」
「羊肉のジンギスカンですね」
「ジンギスカンか、じゃあそれで」
二人で焼肉器の魔道具を使って肉を焼いて食べる。
タマネギ、ニンジン、キャベツなどの野菜も一緒だ。
「うん、おいち」
「美味しいです」
もぐもぐとお肉を頬張る。
甘辛い漬けダレが一段とよい具合だ。
やっぱり美味しいご飯は元気になれるからうれしい。
食事をしたら今度は宿泊しないとね。
「今日はツインのベッドで!」
「あれ、ダブルにしないんですか?」
「う、うん……」
「私、一緒のベッドでも、気持ちよく眠れましたよ?」
「じゃ、じゃあ、やっぱり、ダブルで」
「はいよ。スイートルームでいいかい?」
「いいですよ」
ここでも三階の角部屋だ。
スイートルームという一部屋しかない貴族様向けの部屋。
二人でベッドにもぐりこんで、枕を出したら、はい、おやすみなさい。
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