第9話

 性とはなんだろうか。

天性の切なさを持った娘もしくは息子がいた。どちらでもない者もいたはずだ。

 オレはどこまで逃げ切れるだろう。

 最近、なぜかアパートに防犯カメラが増設された。そして、一人が警察に連れて行かれた。

 危ないところに一人娘は置いておけない。お前もいけ、と母とアパートに住むことになった。私の食生活に母は、いいんじゃない、いろいろ後々で、と言っていた。

 実家の方がずっと自炊をした。

 わたしは、オレを使わなくなった。おら、とかも言ってない。わたしは15歳、塩梅白。

 秘密のアルバイト先に、東野圭吾の本を求めて斎藤が来た。大丈夫だ。ただのお手伝いなのだから。

 斉藤が言う。

「作家はすごいよね」

それだけだった。

わたし、わたしは。

「わたしには、なれっこない」

天性の切なさが訪れた。せめて書いて欲しい、と。

誰のどんな思いか、分からない。

ただ。

「わたしだったら登場人物は少なくして、個性を持たせる。まずはそこからじゃないと……」

物語は誰がどのセリフを言ったのか分からなくなる。

斎藤は新刊を購入した後。

「……自分でも書けないと思う。なぜなら、僕と言いたいのに、周りは俺で、お前も前はオレで、いつか作家になれたら、私、ってインタビューで言いたい」

本を大切そうに抱えて、本屋を出て行った斎藤。

斎藤の家、アパート経営だった気がする。

帰ってレイに森で相談した。もう、レイは喋れない。光の玉みたいになっている。

「レイ、いつかきっとレイの時代が来るから未来で待ってた方がいい。オレがわたしになれたように。オレがオレでもよかったように」

レイは瞬いて消える前に言う。

「ひとり」

一人暮らしのことだろうか。それとも、わたしの今後の運命か。レイがきっと危ない人を遠ざけてくれたんだな。室内で首から下げた防犯ブザーをいじくる。

「一生一緒に暮らしても良かったかもしれない」

 真ん中じゃなくてもいい。てっぺんじゃなくてもいい。どちらかじゃなくてもいい。

 レトルトなら作ったのに。

 涙は出ない。ただせつない。

 自分の子に、何も作らなかったみたいだ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

天性のせつなさ 明鏡止水 @miuraharuma30

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ