2-8 家出

 クラスの連中も、大声で怒鳴る教師も、頭の悪い上級生たちも、親も、誰も私を理解してくれそうになかった。

 そりゃそうだ。私だって彼らを理解しようなどと思っていないのだから。誰にも愛されない、誰にも想ってもらえないなんて当たり前のことだった。


 夜道を街頭が照らしていた。


 どこまで歩いたのか、今どこにいるのかもわからなかった。


「君、学生かい?こんな時間に・・・あ!待ちなさい!」


 私はその男を目視すると咄嗟に走り出した。警察官だった。素直にありのままを話していれば、家に連れ戻されるに違いなかった。


 走って、走って、走って、真っ暗な街頭のない道に出た。遠くで警察が私を探す声が聞こえた。


 住宅街になっている道をしばらく進むと、古い集合住宅が数軒立ち並んでいる場所に出た。

 暗くてよく見えないが、おそらく白かったであろう壁はところどころ剥がれ、窓の中にはボロ切れのような布が見えている部屋もあった。ぽつぽつと明かりがついているところを見ると住民がいるのだろう。

 その不気味な雰囲気に、私は怖くなって元来た道を戻ろうと振り返った。この際あの警察の男に家まで連れ戻されても構わないと思った。


「龍ヶ江さん?」


 振り返ると、大きな英字がプリントされた灰色のダサいパーカーを着て、買い物袋を下げた浜辺が立っていた。


「どうしたの?こんなところで・・・家こっちだっけ?」


「いや・・・」


「あ〜わかった。家出でしょ」


 彼女は楽しそうに笑うとそう言った。


「まぁ、上がりなよ。私しかいないから」


「・・・」


 そう言うと浜辺はボロアパートの階段を登り始めた。今の私は彼女について行くほか無かった。

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僕たちに正解はない 灯然 @tomori09

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