【4-30】 心得違いと鬱屈と
【第4章 登場人物】
https://kakuyomu.jp/works/16817330657005975533/episodes/16818023213408306965
====================
草原の国・ブレギアは、2代目の活躍により先代崩御の精神的痛手から立ち直りつつあった。
アリアク城塞の重鎮・ダグダ=ドネガルの死は、国境付近の領主たちの動揺を再び生じかねない。
その事実はブレギアの主脳部のみに留められ、たちまち伏せられた。
【4-6】 越年の出兵
https://kakuyomu.jp/works/16817330657005975533/episodes/16817330662314405258
簡素な葬儀の後、息子のネイトがドネガル家を継いだ。
だが、彼は父とは大いに異なり強欲で、血族・カーヴァル家を継いだばかりのレオンの下に付くことすら、
父・ダグダの葬儀を贅を凝らしたものにできなかったのは、首都・ターラの意向に服したのではなく、あくまでもドネガル家の蓄財が枯渇していただけのことである。
ネイトの自尊心は若君に従わぬほど――それは多分に父親よりも母親からの影響が大きかったといえる。
名門・ドネガル家に嫁いだ母・ボアヌももちろん帝国一級の貴族出身であり、夫が遠い北の草原において新国家建国に
ブレギアに亡命してからは、「逆族の妻」として親族からは離縁されたばかりか、これまでの至れり尽くせりの暮らしから一変、老女中1人だけの質素な生活に陥ったことも、彼女の
本来であれば、帝国の上流貴族しか踏み入ることを許されぬサロンにて、日がな一日、美術品を鑑賞し、花を愛で、高価な菓子と茶を味わい、
それが、いまでは、しみったれた田舎城塞にて、食事の賄いから洗濯、子育てに追われている。ナイフとフォーク以上重たいものを持ったことのなかった細い指は、あかぎれだらけになっていた。
夫はそうした妻をかえりみず、貴族としての典雅な生活を惜し気もなく捨て去り、こ汚い弟たちと革命ごっこに心血を注いでいった。
いつの頃からか、ボアヌは幼い息子に対して説き続けるようになっていった。ドネガル家の血統の重さを、先祖が帝国でどのような地位にあったのかを。
さらにこの数年、新興国・ブレギアがその基盤を確固たるものにしてくると、同国におけるドネガル家の果たしてきた重責も、息子に対して語るようになっていく。
夫の革命ごっこを非難しなかったのは、そんな夫についてきてしまった彼女なりの自己正当化であったのだろうか。いずれにせよ、一人息子への問わず語りが、彼女のなけなしの
ボアヌの自負心を保つための行為は、副作用を生み出していた。
それも母親本人ではなく一人息子に。子息・ネイトは、自家に対して客観性を大いに欠くほど、特別意識を持つようになっていったのである。
それは、年月とともに膨れ上がり、ブレギア国主逝去の折、己も国主継承権を有すると、ネイトは本気で思い込むまでになっていた。
母親の繰り返された問わず語りに度々登場するフレーズ――先代国主・フォラと実父・ドネガルが同じ皇族であったとの事由による。
フォラ=カーヴァル死後、ホーンスキン一派による国政
【1-9】 軍備負担と発言力
https://kakuyomu.jp/works/16817330657005975533/episodes/16817330661487250717
そのため、2月15日に執り行われた先代・フォラの大法要、翌日の2代目・レオンの即位式に対し、彼は早々に欠席を決め込んだ。
代役として叔父のクイル=ドネガルが式典に参列したが、招待状はアリアク城塞に届いたその場でネイトに破り捨てられていた。おかげで、クイルは式典受付にて自己紹介をせねばならない羽目になった。
【4-8】 凱旋と就位 下
https://kakuyomu.jp/works/16817330657005975533/episodes/16818093072958788775
西の辺境要塞の若者は、諦めていなかった。
レオンなど陣代(一時的な国主)に過ぎない、と信じていた。つい先年まで、ヤツはオイグ姓を名乗っていたではないか、と。
それを、「小覇王の再来」とまで騒ぎ立てる新聞各紙、それを喜んで読み漁る領民たち――ネイトは理解できない。理解しようとも思わない。
逆に世に問いたかった――妾の子ごときが代替わりに手を挙げたことすらおこがましかろう、と。
【家系図】カーヴァル家・ホーンスキン家・オイグ家
https://kakuyomu.jp/users/FuminoriAkiyama/news/16817330668065428797
即位式を終えたブレギアでは、内政軍事どちらにおいてもドネガル家が口をはさむ余地などなかった。
国政は、先代国主の義弟以下、御親類衆が要職を引き続き独占しており、軍事面では、レオン配下の若者たちが頭角を現していった。
ドネガル一門も血筋の上ではまごうことなき「御親類衆」であったが、先代ダグダの頃から、国主義弟・ウテカ=ホーンスキンらとの折り合いがすこぶる悪かった。
【1-16】 空咳と暗湿
https://kakuyomu.jp/works/16817330657005975533/episodes/16817330661504107342
新たに実権を握りつつある新鋭のレオン一派も、黙々と実務に邁進するだけの
前国主正妻一族からも、新国主補佐官衆からも
御親類衆から軍権を取り戻し、日の出のごとき勢いのレオン一行は、へそを曲げたドネガル家の次期当主など構うことはなかった。
彼らはまるで首都・ダーナの
【作者からのお願い】
この先も「航跡」は続いていきます。
ブレギアにとって、安心の拠点・アリアク城塞が、何だか変な空気になってきたな、と心配な方、🔖や⭐️評価をお願いいたします
👉👉👉https://kakuyomu.jp/works/16817330657005975533
ネイトの乗った泥船も推進力は必要かと思われますので、何卒、よろしくお願い申し上げます🚢
【予 告】
次回、「番犬と酔わない客人」お楽しみに。
「ドネガル家は、番犬ではないぞオッ」
酒が入ると、ネイトは誰彼かまわず、わめき散らすようになっていた。
なるほど、父の代から西の辺境につなぎ留められてきたからこその「番犬」とは、言い得て妙である。
しかしその番犬も、哀れなことに昨今では、
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます