第5話 赤色の男、再来!
チェリーを追いかけて千春がやってきた場所は、なんと高校だった。だが、チェリーの慌てっぷりに躊躇なんてしていられない。千春は思い切って高校の中へと駆け入っていく。
外には特に異変はない。いや、放課後だというのに誰も居ないのはおかしい話だ。千春は校舎の中へと移動する。
校舎の中に入ると、しょっぱなから異様な光景を目撃する。廊下には真っ赤に染め上げられた生徒や教師が倒れていたのだ。赤くはなっているが、別に血というわけではない。だが、誰一人としてぴくりとも動かなかった。
「この赤は……、間違いなくあいつの仕業だな。……正直あの姿にはなりたくないが、このまま放っておいたら被害が広がっちまう。仕方ねえ!」
この惨状に、千春はやむなくブローチを取り出した。
「パステル・カラーチェンジ!」
千春がそう叫ぶと眩い光が辺りにあふれ、その中からパステルピンクが現れた。
「こっちだ!」
チェリーの案内に従って、パステルピンクは再び走り出した。
走っていく廊下には、赤く染め上げられた生徒たちが倒れている。それをたどって着いた場所は、なんと美術室だった。
「きゃーーっ!」
中から悲鳴が聞こえたので、パステルピンクは扉を開けて中へと入る。そこで見たのは、全身が真っ赤に染まった状態の女子生徒が、美術部員だと思われる女子生徒に襲い掛かろうとしている光景だった。襲っている女子生徒の手には、怪しげなオーラを放つ筆が握られていた。
「やめろっ!」
パステルピンクが叫んで飛び込むが、止める前にその怪しげな筆が美術部員の女子生徒に振り下ろされる。すると、その女子生徒の体が赤く染まっていき、その場に倒れ込んでしまった。
「な、なんてこった……」
間に合わなかったパステルピンクが悔しそうに呟くと、怪しげな筆を持つ女子生徒がパステルピンクの方へと振り向いた。思わずその姿に怯むパステルピンク。それも無理はない。鮮やかな赤に染まった全身に、白く浮かぶ開き切った目、首を軽く傾けた状態でゆらりと立っているその姿は、明らかに正気を失っていたのだ。
次の瞬間、右手に持った筆を振りかぶってパステルピンクに襲い掛かってきた。
「あぶねぇっ!」
すんでのところで躱すパステルピンク。勢い余った女子生徒はそのまま扉へとぶつかった。しかし、すぐさまくるりと振り返って、再び襲い掛かろうとしている。
(くそっ……、さすがに女子に暴力は使いたくねえな。……いや、あれが使えるか?)
パステルピンクは何かを思いついたようだ。
「来いっ! パステルブラシ!」
パステルピンクが叫ぶと、その手にはピンクの筆が現れる。そして、それを振りかざす。
「心地よい春の調べよ、かの者を眠りへと誘え、スリーピング・ウォーム!」
パステルピンクが魔法を使うと、その手に持つ筆から虹色の五線譜が流れ出し、襲い来る女子生徒を包み込んだ。すると、女子生徒は意識が保てなくなったのかふらふらとしながら、やがてその場へと倒れ込んだ。恐る恐る近付いて確認すると、スースーと寝息を立てている。どうやら眠っているだけのようだった。
「やはり現れたな、パステルピンク!」
安心したのも束の間、聞き覚えのある男の声が教室に響き渡った。パステルピンクが振り返ると、窓の外には昨日の赤い男が浮かんでいた。
「お前は昨日の!」
「ほぉ……、覚えていたか」
パステルピンクが叫ぶと、赤い男はにやりと笑う。
「昨日はしてやられたが、今日はどうだろうかな? 冥途の土産に教えておいてやろう。俺の名前はモノトーン四天王が一人【赤のレド】、貴様を墓標に沈める男だ!」
赤い男改めレドは、もの凄い殺気を全身から放っている。その様子に、パステルピンクは身構える。
「ふっ、この程度でびびっているようでは、この俺が手を下すまでもないな」
レドはパステルピンクを見下して不敵に笑う。そして、右手を前に突き出す。
「さあ、昨日のようにはいかんぞ。出でよ、モノトーン!」
レドが叫ぶと、腕から何やら闘気のようなものが飛び出し、倒れている赤く染まった女子生徒の持つ筆に命中する。すると、女子生徒から何やら赤色の煙が立ち上り、筆へと吸収されていく。その筆が浮き上がったかと思うと急激に回り出し、はじけ飛んだかと思えば昨日も見たような化け物が現れた。
「モノ、トーンッ!」
現れるや否や、化け物はパステルピンク目がけて襲い掛かってきた。近くには女子生徒が倒れている上に、教室の中では狭すぎる。
「パステルピンク! その姿ならこの程度の高さどうって事はない。外へ出るんだ!」
「分かった!」
チェリーの声に、パステルピンクは開いている窓から外へと飛び出した。スカート姿だがそんな事を気にしている場合ではない。くるくると回転すると、見事に着地を決めていた。
「すげえ、あの高さから無事に飛び降りられるとか……」
パステルピンクは感動していた。だが、
「モノ、トーンッ!」
化け物も追随して飛び降りてきた。化け物が地面に着地すると地面が大きく陥没したが、それでも化け物はぶれない。そして、すぐさまパステルピンク目がけて飛び込んできた。
だが、パステルピンクの方も今日は違う。男ではする事のない姿だが、今の状態なら不思議なほどに動けてしまうのだ。突進を躱してからそのままサッカーで鍛えた蹴りを化け物の後頭部へお見舞いする。思いの外の攻撃力だったのか、化け物はそのまま体勢を崩した。
「パステルピンク、今だ!」
追いかけてきたチェリーが叫ぶ。パステルピンクは無言で頷くと、手に持ったパステルブラシを構えた。
「輝け、ぬくもりの色よ! 舞え、春風に乗せて! スプリング・カラフル・ストーム!!」
マジカルブラシからピンクの帯が飛び出していく。立ち上がろうとする化け物は、あっという間にそのピンクの帯に包み込まれてしまった。
「モ、モ、モノトーン!!」
断末魔を上げて、化け物が浄化されていく。そして、浄化され終わると、そこには普通の絵筆がぽとりと落ち、周りの景色も何事もなかったかのように元の状態へと戻っていった。
「チッ……、ガキが調子に乗りやがって。だが、今日はこのくらいにしておいてやる。次に会った時こそ、その息の根を止めてやるからな!!」
レドは捨て台詞を吐くと、かき消すようにその場から去っていった。パステルピンクは睨むような目で、レドの去った空をしばらく眺めていたのだった。
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