第9話 パステルオレンジ
とある夕暮れの公園。人の姿が見えないその場所で二つの影が動いている。
「ぐはっ!」
その一方が苦痛に声を上げて吹っ飛ぶ。その落下地点の地面は抉れ、破片が辺りに飛び散る。
「不意打ちとはやってくれるわね」
全身が青色の女性が、立ち上がってもう一つの影を睨みつける。
「その姿、パステル王国の伝説の戦士と見たわ」
この声に、もう一つの影はまったく反応しない。声を無視してゆっくりと歩み寄ってくる。
「ふん、答えないならいいわ。この痛み、何倍にもして返してあげる。来なさい、モノトーン!」
青色の女性から放たれた光が、辺りの遊具を青色のモノトーンへと変化させる。
「モノトーンッ!」
雄たけびを上げて、2体のモノトーンが人影へと襲い掛かる。このモノトーンたちは単純ではなく、人影の左右に分かれて挟み込むような形で攻撃を仕掛けてきた。
だが、その人影は難なくモノトーンたちの攻撃を躱し、まずは1体を蹴り上げて飛ばし、もう1体にはその勢いを利用して飛び上がった状態から踵落としを決める。思わぬ攻撃に、モノトーンはふらふらとしながらそのまま倒れ込んだ。
「彩りを我が手に、パステルチューブ!」
人影がそう叫ぶと、絵の具のチューブの様な物が何本も空中に現れた。先程の攻撃から間髪入れずに、人影は攻撃を繰り出す。
「悪しき心を塗り替える、パステル・オータム・ペイントレイ!」
人影が技の名前を叫ぶと、空中に浮かんだチューブから七色の絵の具が飛び出してきた。そして、そのままモノトーン目がけて向かっていく。
そう思われたのだが、青色の女性はとある事に気が付いた。よく見ればその攻撃は自分にも向けて放たれていたのだ。蹴り飛ばされたモノトーンに意識が向いていたために、青色の女性の反応が遅れてしまう。
「くそっ! 守りなさい、モノトーン!」
だが、青色の女性の叫ぶ声もむなしく、蹴り飛ばされたモノトーンはぴくりとも動かない。
「ちっ!」
そこで青色の女性はすばやく、蹴り飛ばされて逆さまに刺さって動かないモノトーンの陰へと移動する。間一髪、青色の女性は攻撃の直撃を免れる。
だが、人影の攻撃の直撃を食らったモノトーンは、気絶しているのか断末魔を上げる事すらなく、その攻撃によって浄化されて元の遊具へと姿を戻していった。
その物陰で呼吸を乱している青色の女性。その姿に冷たい視線を向ける人影。更なる戦闘になるのかと思われたが、不意を打たれて上にあっさりとモノトーンを撃退されてしまった青色の女性は、
「くっ、今日は調子が悪かっただけよ。ここはおとなしく引いてあげるわ」
と負け惜しみを口にする。
「あたしはモノトーン四天王の一人、【青のブルーエ】。あなたの名前、聞かせてもらえるかしら?」
最初の一撃で傷を負った腕を押さえながら、ブルーエは人影に対して話し掛ける。すると、
「……話し掛けるなんてずいぶん余裕があるのね。まあいいわ、名前くらい聞かせてあげる。私は【パステルオレンジ】よ」
人影、改めパステルオレンジは低い声で答える。その声を聞いたブルーエは殺気を感じて震え上がった。
その隙をついて襲い掛かろうとするパステルオレンジ。
「あっら~? ブルーエったらこんな所で何をしてるの~?」
「イエーロか。助けられたくない奴だが、今回はいいタイミングよ」
気持ち悪い声が聞こえてきたので、ブルーエは嫌悪感を表しながらもそう吐き捨てた。思わぬ敵の出現に、パステルオレンジは動きをぴたりと止めた。
「あら~やだやだ、傷だらけじゃないの~。そっか~、そこの悪い子ちゃんの仕業ね。だったら~、この私がお仕置きしてあ・げ・る♪」
イエーロはくるりとパステルオレンジの方を見た。あまりの気味の悪さにパステルオレンジは身構えた。
「イエーロ、舐めてかかるな。こいつはあたしのモノトーン2体をあっさり撃退してくれたんだ。下手を打てば返り討ちに遭う」
「あらあら~、そうなのね~」
こう言ってイエーロは少し考えた。
「うふふ~、今日のあなたは運がいいわね~。ブルーエにこんなに心配してもらえるなんて、私、感激~。だから、今回は見逃してあ・げ・る」
イエーロの言葉が信用できないパステルオレンジは、更に力を込めて身構えた。
「あらやだ、怖い怖い。最近の子ってなんて野蛮なのかしら~」
イエーロはくねくね動く。あまりの気持ち悪さに、パステルオレンジは耐え切れずに飛び込んで拳を突き出していた。
「もう、そんなに死に急ぐ事はないのに、困ったちゃんね~」
イエーロは黄色い煙幕を放つと、パステルオレンジの視界を潰してブルーエを抱きかかえた。
「今日は戦う気は起きないから、これでさよならね」
「パステルオレンジ、次に会う時は倍返しにしてあげるわ」
この言葉を残して、ブルーエとイエーロはその場から姿を消したのだった。
敵が居なくなりすっかり元の状態に戻った公園には、ようやく煙幕を払いのけたパステルオレンジだけが静かに立っていた。
「くそっ、逃げられたわ」
実に悔しそうな表情を浮かべたパステルオレンジ。彼女は握りしめた拳を下ろすと、そのまま夕暮れの公園を歩いて立ち去っていった。
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