第8話 状況確認
3度目のレドとの戦いを終えた千春と美空は、一度千春の家まで移動する。一回状況をまとめる必要があるので、そのための話をするためである。
千春と美空は、チェリーとグローリから改めてパステル王国とモノトーンの話を聞く。ちなみにモノトーンはレドが所属する組織の名前であり、あの化け物たちの名前でもある。
「なるほどね、あの赤い男はそのパステル王国を襲った一味の一人ってわけね」
「うん、そういう事なんだ」
美空が納得したように話している。
「驚かないのか?」
「もう十分驚いたわよ。千春が可愛い少女になって戦う以上に、何に驚けと言うの?」
「ぐっ……」
千春のツッコミにこの上ない返しが来てしまい、千春は言葉に詰まった。さすがは幼馴染み、とてもやりづらい。
「まぁ、私も変身してああやって戦っちゃった以上ね、驚いてばかりもいられないのよね」
この言葉を聞いて、美空はすでに覚悟を決めているという事が分かった。
だが、これだけ現実離れした出来事を、そう簡単に受け入れる事ができるだろうか。いや、無理だろう。頭が混乱して現実逃避をするのが関の山である。美空がこれだけすんなり受け入れて覚悟を決められるのは、千春の姿を見たという事が大きいのだろう。
「それでなんだけど、モノトーンについて詳しい事はボクたちには分からないんだ。なにせ急な事だったし、ボクたちは混乱してしまっていたからね」
「本当なら私たちが、その辺りの情報を提供しなければならないんだけど、本当にごめんなさい」
チェリーもグローリも頭を下げて謝った。
「過ぎた事だ、気にするな。とりあえず暴れてる連中をとっちめればいいだけだろ?」
「そうね。とりあえず、敵の攻撃を退けつつ、私たちの他に居る三人を見つけ出せばいいのよね?」
千春も美空も、とりあえずは前向きのようである。というよりは、ここまで巻き込まれてしまっては逃げても無駄だと観念したのだ。
「二人ともありがとう。理解は早いし、とても助かるよ」
チェリーはお礼を言って顔を上げた。
「にしても、あっちはなんとなくお前たちの事、分かってるみたいだな」
「いや、向こうも多分ボクたちの事は分かってないよ。パステル王国の住民なんて、あいつらからしたらみんな同じに見えるはずだからね」
「うん、多分奇妙な二足歩行する小さな連中としか思ってないわよ」
千春が疑問をぶつければ、チェリーとグローリからそう言葉が返ってきた。
「そんなもんなのか?」
「そんなものだと思うわよ」
千春の叫びに、グローリは冷静にツッコミを入れた。
「なんにしても、君たちが平穏な日々を取り戻そうと思うなら、あいつらを倒さなきゃいけない。あいつらにこっちの事情なんて関係ないからね」
チェリーのこの言葉に、千春も美空も深く頷いた。
こうして話を終えると、美空はグローリと一緒に家へと帰っていった。
部屋に残った千春とチェリー。
「いや、本当に君たちは話の理解が早くて助かるよ」
チェリーは腕組みをして頷いている。その様子に、千春はぎろっとチェリーを怪しんで睨む。
「どういう目なんだい、千春」
「何か企んでねえよな?」
「心外だなぁ。君たちのおかげで落ち着いてはきているけど、ボクたちだってあまり状況を把握してないんだ。だから、言葉だってうまくまとめられないんだ。その中で君たちが、ボクたちの意図をちゃんと汲み取ってくれてるから感謝してるんだよ」
チェリーが必死に言い訳しているが、千春のジト目は変わらなかった。
「まっ、どう言い繕ったところで、怪しいのは変わりない。ただ、あいつらは明確な敵で、それと戦うにはお前らの力が必要だって事は確かだからな」
千春はチェリーからようやく視線を外し、右手を強く握ってチェリーに語り掛ける。
「だが、正直あの姿はどうにかならないのか?」
千春はずいっとチェリーに顔を近付けた。
「あの姿って何の事だい?」
「パステルピンクの姿の事だよ。あんな少女趣味な姿、どう考えても俺には合わないぞ!」
千春は本気で怒っていた。プロのサッカー選手目指して日々努力する千春にとっては、似つかわしくない姿なのだから。
「仕方ないよ、伝説の戦士はみんな少女と伝わっているんだから。ボクとしても、なぜ君と波長が合ったのかは分からないんだ。平和を取り戻すには変身してモノトーンと戦わなきゃいけないから、我慢してもらうしかないよ」
文句を言ったところで、チェリーにしっかり反論されてしまう千春。さすがにもう項垂れてしまい、
「はぁ、俺一人が我慢すればいいんだよな。あいつらの事は許せないし、こうなったら我慢してとことん付き合ってやるよ……」
そのままふらふらとベッドに顔をうずめて落ち込んでいた。
「うん、その方がいいよ。じゃないと、二人目が見つかった今、千春がここで投げ出せば、美空一人で戦わなきゃいけなくなるんだからね」
「あいつ一人に背負わせるのは心が痛むぜ……」
さすがに美空だけを危険な目に遭わせるのは、幼馴染みとしては耐えがたいもののようだった。
「あの赤い男、レドとか言ってたけど、四天王とも名乗っていた。だから、少なくてもあと三人はああいうのが居るって事だね」
「だろうな……。あとはそれをまとめるボスも居るだろうし、先は長そうだぜ」
千春はベッドから顔を起こしてチェリーを掴む。
「だから、お前はさっさと他の仲間を見つけてくれ。俺もできる範囲でやるから、とにかく頼む」
千春の顔は真剣だった。
「わ、分かったよ……。今まで見つけられなかったけど、グローリが見つかった事で希望は出てきたからね」
勢いに負けて、チェリーは他の聖獣探しに力を入れる事を約束した。
さてさて、千春たちに平穏が戻るのは一体いつになるのだろうか。それは誰にも分からなかった。
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