第7話 二人目の戦士
水色の髪に水色系のさわやかな青の服装の人影が見える。一体何者だというのだろうか。その次の瞬間、
「命輝く躍動の時、夏の妖精【パステルシアン】、さわやかに参上!」
高らかにそう名乗ると、レド目がけて走り始めた。どうやら味方で間違いないようだ。
「た、助かった。これをどうにかしてくれ」
パステルピンクはこう声を掛けるが、パステルシアンは目もくれずに横を通り過ぎていった。
「おい、待……」
呼び止めようとしたパステルピンクだったが、手を動かせている。よく見ると、自分を縛り付けていた蔓がどんどんと枯れていっていた。
(まさか、さっきの技の影響か?)
とりあえず自由になったパステルピンクは、残った自分の手足に絡みつく蔓を必死に剥がしていった。
その間に、パステルシアンとレドの戦いは始まっていた。飛び込んでくるパステルシアンをレドが慌てずに迎え撃つ。
「ちぃ、新しい戦士か。やってしまえ、モノトーン!」
「モノ、トーン!」
レドの命令に、植物型の化け物は雄たけびを上げてパステルシアンに襲い掛かる。パステルピンクを襲ったのと同じ、不規則な動きの蔓による攻撃だ。だが、パステルシアンはそれを冷静に躱していく。その身のこなしに、パステルピンクは唖然として口を開けていた。
パステルシアンは化け物との距離を詰めたところで、その右手に力を集中させる。
「来てっ、パステルミスト!」
パステルシアンが叫ぶと、その右手に現れたのはなんと霧吹きだった。パステルシアンのカラーである水色の霧吹きなのだが、何と言ったらいいのか分からない、実に吸い込まれそうなほどに透き通った水色だった。
パステルシアンは、霧吹きを持って構える。
「降り注げ、浄化の雨! パステル・サマー・スコール!」
パステルシアンがそう叫んで、霧吹きを空に向けてひと吹きする。すると、霧吹きから放たれた魔力が激しい雨となって辺り一帯に降り注ぐ。レドは素早く範囲外に逃れたが、植物型の化け物は遅い動きもあってかまともに食らう。
「モ、モノ……トーン!」
攻撃を食らった化け物は、断末魔を上げてその姿が崩れ去っていく。まるで雨に流される泥のようだった。
攻撃を決めて着地したパステルシアンがレドを睨みつける。さすがに2対1では分が悪いと感じたか、レドは舌打ちをしながらその場から掻き消えた。
パステルシアンの戦いに、パステルピンクは呆然として立ち尽くしている。そうしていると、どこからともなく水色の小動物が現れて、パステルピンクに声を掛けてきた。
「危なかったわね。だけど、モノトーンはもう去ったから大丈夫よ」
「グローリ、今までどこへ行ってたんだよ。ずいぶん探したんだよ?」
パステルピンクに声を掛けていた小動物に、チェリーは駆け寄っていく。どことなく怒っているような感じだったが、グローリと呼ばれた小動物はチェリーを見てため息を吐いた。
「あなたねえ……、それはこっちのセリフよ? 私だって必死に探してたんだから」
グローリはじろりとチェリーを睨んだ。
「そっか……。でも、君が無事でよかったよ。その上、伝説の戦士まで見つけてくるなんて……。ボクは、ボクはとても嬉しいよ!」
だが、チェリーは緊張の糸が切れたようにわんわんと泣き始めた。パステル王国を追われた小動物二体がこうして再会を果たしたのである。今はそっとしておくべきだろう。
それよりも気になるのは、パステルシアンである。突如として現れた彼女は何者なのか、パステルピンクは気になって仕方なかった。
パステルピンクの視線に気が付いたパステルシアンは、さっきまでの険しい表情を緩めてふっと笑顔を見せる。その表情に思わずドキッとするパステルピンクだったが、どこかで見た事があるような顔が気がしていた。
「……、私の顔に何かついてる?」
「い、いや、別に……」
急に声を掛けられたパステルピンクは、ふいっと顔を逸らした。
「もう、はっきり言いなさいよ、千春」
「えっ?!」
不意に自分の本来の名前を呼ばれて、パステルピンクは驚いた表情でパステルシアンを見る。すると、パステルシアンは何かを思い出したかのように声を上げた。
「あっ、この姿じゃ分からないか。ちょっと待ってて」
パステルシアンがそう言って変身を解いた。すると、そこに現れたのはパステルピンクこと千春がよく知る人物だった。
「げっ、美空?!」
「げって何よ、げって!」
そう、千春の幼馴染みである美空だった。美空はその反応の仕方に憤っている。その二人の間に、グローリが割って入る。
「ははは、性別の変わっている君がそこまで驚かなくてもいいじゃないの。美空ちゃんはあなたのためを思って、この力を受け入れたのよ?」
「へ? 俺のため?」
パステルピンクはグローリの言葉を聞いて、美空とグローリを交互に見る。
「そうよ。おとといの事なんだけど、千春が変身して化け物と戦うところ見ちゃったのよね。それでその後どういう事なのか悩んでいたら、昨日グローリと会ったのよ」
美空はグローリと会った経緯を話してくれた。実にチェリーとグローリはニアミスをしていたようだった。
「まあ、そういうわけだから、これからは一緒よ」
美空は嬉しそうに微笑んだ。パステルピンクはどうにもまだうまく消化できないようで、目をぱちぱちとしている。
「こら、千春、ちゃんとしなさい」
「は、はいっ!」
美空が大声で叱ると、パステルピンクはしゃきっと背筋を伸ばして返事をした。そして、しばらくすると二人揃って笑い始めた。チェリーとグローリは、二人の行動がよく分からなくて首を傾げている。
「改めて、これからもよろしくね、パステルピンク」
「ああ、こっちこそな、パステルシアン」
二人は固く握手を交わしたのだった。
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