第6話 水色のグローリ
なんとかレドを退けた千春は、変身を解いて家へと戻る。さすがに全身ピンクの姿は目立つから仕方がない。
それにしても、二日連続での怪物との戦闘ともなればかなり疲れるもので、お風呂に入ってご飯を食べた後は、とっとと寝るしかなかった。
チェリーも千春に掛けた負担は理解しているようで、寝息を立てている千春の頭を撫でていた。
「本当にありがとう。お疲れ様、千春」
そう声を掛けると、千春の隣に入って眠りについた。
しかし、敵であるモノトーンとの戦いはまだ始まったばかりである。目覚めたばかりの千春にはとにかく負担が大きい。チェリーは早く仲間を見つけて負担を軽くしてあげたいと強く誓った。
翌朝は、家を出る時点で千春はチェリーと別れた。というのも、チェリーが早く仲間を見つけたいと張り切っていたからだ。しかし、チェリーは力の戻っていない非力な小動物。千春は「気を付けろよ」と声を掛けてチェリーを見送った。
それにしても、まだたったの二日だというのに、千春はずいぶんとチェリーたちに慣れてしまったものだ。慣れないとすれば、パステルピンクのあの格好だけだろう。まったくもって不思議なものである。
だが、チェリーと約束してしまったからには悩んでても仕方ないなと、千春はさっさと気持ちを切り替えた。
チェリーから聞いた話では、パステル王国の聖獣たちはチェリーと同じように人語を話し、二本足で行動するらしい。一般人には見えないというのも共通。まぁ、見かけたらすぐに分かるだろうというものだ。ただ、それがチェリー以外にも四体も居るので、気長に探すしかなさそうだ。
昼休みの事だった。
千春はお手洗いへと向かうと、廊下の端にある階段に奇妙な小動物を見かけた。全身が青色で、チェリーによく似た感じの小動物だ。周りには学生が結構居るが誰も気が付いていない。まさかと思って千春は駆け出す。
だが、その青い小動物は、千春が近付くよりも前に階段から飛び降りてしまった。慌てて追いかけたものの、その姿をどこにも見る事はできなかった。
首を捻る千春だったが、仕方なくお手洗いだけ済ませると教室に戻る。
見たのは一瞬だったが、あれは間違いなくチェリーの仲間だろう。放課後にでもチェリーに話す事にした。
放課後、この日は部活は中止にならなかったが、千春はそれどころではなかったのでとりあえず屋上に出ていた。しばらくすると、こっそり呼び出しておいたチェリーが屋上に現れた。
「どうしたんだい、千春。急に呼び出して」
到着するや否や、チェリーは呼び出した理由を尋ねてきた。
「昼休みなんだけどな、お前みたいな感じの青い奴を見たんだ。何か知らないか?」
千春は理由を答えつつ、心当たりがないかチェリーに尋ねる。
「ボクみたいな青い奴? うん、多分それは【水色のグローリ】だね。ボクと同じ聖獣さ」
チェリーからは予想通りの答えが返ってきた。
「やっぱりそうか。だけど、見失ってどこに行ったかは分からないんだ。悪いな」
「ううん、無事なのが確認できて一歩前進だよ。そっか、近くに居るんだね」
ほっとしているチェリー。
だが、それも束の間の話だった。
どこからともなく悲鳴が響き渡る。しっかりと聞こえたので、割と近くのようだ。また奴が来たかと感じた千春は、その場で躊躇する事なく変身する。パステルピンクはチェリーを肩に乗せると、さらに一段高い屋上の出入口の上に飛びあがり、すぐさま声の発生源を探した。
「パステルピンク、あそこだ!」
さすが小動物。悲鳴の発生源を突き止めてパステルピンクに伝える。すると、パステルピンクは10mはある校舎の屋上から、躊躇する事なく飛び降りる。いくら変身して身体能力が上がっているとはいえ、この高さから飛び降りるのは勇気が要るものだ。だが、パステルピンクへと変身した千春の心の中には、とにかく早く助けなければという使命感しかなかったのだ。
いくらスカートの中がドロワーズだからといっても、よくもまぁ平気に飛び降りられるものである。
着地をうまく決めたパステルピンクは、現場に駆けつける。するとそこには、実に三度目となるあの男の姿があった。
「レド! やっぱりお前の仕業か!」
そう、モノトーン四天王の一人であるレドだった。
パステルピンクが叫ぶ声に、レドはゆっくりと振り返る。
「ふっ、やはり来たか、パステルピンク! 今日こそお前を真っ赤に染め上げてやる!」
二度も邪魔された怒りからか、額に血管を浮かべながら叫ぶレド。一方のパステルピンクだって、負けてやるつもりなんてさらさらない。レドの動きを見極めるために構える。
「くっくっくっ……。今回は今までのようにはいかんぞ?」
怪しく笑うレドの態度に、パステルピンクの構えに力が入る。
「さぁ出て来い、モノトーン!!」
レドの声を合図に、その後ろにあった花壇を中心に激しく揺れる。そして、その花壇の中から真っ赤な植物の化け物が出現した。
「さぁ行け、モノトーン! 俺の邪魔をする馬鹿な奴を八つ裂きにしてやれ!」
「モノ、トーンッ!!」
化け物は雄たけびを上げながら、今までの化け物同様にパステルピンクに襲い掛かってくる。だが、今回の化け物はひと際動きが遅い。今のパステルピンクなら余裕で躱せてしまう。
だが、この時パステルピンクは重要な事を失念していた。相手が植物なのである。
しゅるるるっと化け物から蔓が伸びてくる。そして、あっという間に化け物に手足を絡めとられてしまい、パステルピンクは身動きが取れなくなってしまった。
「くっ、しまった……」
振り払おうともがくが、蔓は更にパステルピンクを強く拘束していく。
「はっはっはっ……、実にいい様だな、パステルピンク!!」
レドは高笑いをしながら、何やら金属の物体を取り出して構えた。かなり大きい物だが、どうやら塗装などに使う金属ヘラのようである。
「俺の気が済むまで、こいつを使ってお前を真っ赤に染めてやる。さぁ、覚悟しやがれっ!」
目まで血走り、完全に真っ赤となったレドが突進してくる。どうにも振りほどけないパステルピンク、絶体絶命のピンチである。
だが、その時にどこからともなく声が響き渡った。
「パステル・オーシャン・シャワー!!」
声と同時にパステルピンクの周りに青く輝く光の筋が降り注いだ。その光の筋に気が付いたレドは、攻撃をやめてとっさに回避した。
「だ、誰だっ?!」
辺りを見回すレド。
「その赤色、きつすぎて目障りだわ」
不意に聞こえた声の方向を見ると、そこにはよくは見えないが、全身水色の服に身を包んだ人影が立っていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます