第4話 二人目を探せ

 翌朝、目覚ましの音に起こされる事なく普通に起きた。部屋に置かれたベッドには奇妙な小動物が眠っており、昨日の事が夢ではなかったと認識させられた。

 昨日、サッカー部を襲った男はあらゆる世界の征服を企む悪者の一人で、この小動物、チェリーは、それに対抗する力を持った聖獣であり、千春はその力を使って世界を救う伝説の戦士。そんな漫画やアニメみたいな話があるわけないと思う千春だったが、現実は非情だった。

 というわけで、千春は逃避する事を諦めて現実を受け入れた。そして、チェリーからいろいろと事情を説明してもらった。

 チェリーの説明によれば、どうやら伝説の戦士は何も一人ではないらしい。聖獣はそれぞれに伝説の戦士が一人ずつ対応している。聖獣は全部で5体居るらしいので、千春以外にも伝説の戦士が四人は存在するという事になる。

 肝心の伝説の戦士たる条件は、まず第一に聖獣を見る事ができる事。ただこれに関しては、パステル王国の人間であれば誰もが聖獣を見る事ができるので、これはつまりパステル王国以外の世界での条件となるらしい。

 また、それが原因か、パステル王国の住民やそれに近いか干渉できる力を持っていないと、聖獣に触れたり捕まえたりといった行動はできないそうだ。言ってしまえば、聖獣は壁や車といった物すべてに対して通り抜けができるのだ。意図的に能力を使わなければ、地面すらも貫通する事ができるそうだ。

 そして、第二として、その聖獣の力と共鳴できなければならない。この第二の条件を満たす事で、聖獣の力を用いて伝説の戦士として覚醒するそうだ。

 ただ、聖獣たちはパステル王国から逃れる際に力を大幅に消耗しており、伝説の戦士の能力も弱まっているそうだ。時間的な回復を待たなければならないようである。

「なるほどな。条件自体は単純だが、適合となると難しいって事か」

「まぁね。伝説と呼ばれるくらいだから、そんなにあちこち存在してるわけがないんだよ。まぁその分、ボクたちが本来の状態なら、その力は計り知れないよ」

「ふぅん」

 登校途中、チェリーは千春の頭に乗りながら、いろいろと話をしている。

「だけど、その強力さゆえに、ボクたちはその人物を見極めなきゃいけないんだ。千春がいい心の持ち主で助かったよ」

 褒められているのは分かるんだが、変身後の姿の事を思うと、どうしても素直に受け取れない千春である。

 そして、学校に到着すると、

「それじゃ、ボクは他の仲間を探しに行ってくるよ。もし奴らが現れたなら、そのブローチで呼んでほしい」

 チェリーの言葉に、千春は胸ポケットに入れたブローチに手を当てる。それを確認したチェリーは、「それじゃ」と言い残して千春の頭から飛び降りて走り去っていった。

「ははっ、できたら二度とごめんだぜ……」

 千春はそう呟いて教室へと向かった。


 時間はあっという間に放課後になる。

 どういうわけか部活が休止になってしまい、千春は放課後の予定がすっかりなくなってしまった。仕方なくおとなしく下校準備をしていると、幼馴染みの美空が近付いてきた。

「どうしたんだ、美空」

 気が付いた千春は、美空に声を掛ける。

「えっとね。千春、今日は一緒に帰らない?」

 少しもじもじしたかと思うと、美空はそう誘ってきた。

「そうだな。用事もなくなったから、そういうのも悪くないか」

 部活もなくなって暇だった千春は、美空の誘いを二つ返事で了承した。

 そういえば、美空と一緒に下校するのも久しぶりなものだ。家は近所なのだが、千春が部活に所属しているとあって、どうしても帰るタイミングが合わなかったのである。まあ、熱中するあまりに千春が自主練をする事が多かった事も原因の一つだ。

 そういう背景があって、久しぶりに二人並んで帰るというのに、まったくと言っていいほど会話がない。美空が話し掛けては千春が一言二言返す程度しか続かなかったのだ。その状況でも、美空は嬉しそうに満足げな顔をしていた。

「どうしたんだよ、そんなににやけて」

 気になった千春が、美空に理由を尋ねてみる。すると、

「えっ、そんなに顔が緩んでた? えへへ、久しぶりに一緒に帰れると思ったら、なんだか嬉しくてね」

 繕ったような笑顔を浮かべて、ごまかすように答えていた。それに対して千春は、

「ふうん、そんなもんなのか?」

 興味なさそうな反応をしていた。

 この千春の鈍い反応が原因なのか、その後ずっと話もする事なく、並んで家までの道を歩いていく。

 そんな時だった。

「ちはるーっ! 大変だ、奴らが、奴らが現れたよ!」

 目の前から見慣れた(くない)小動物が、叫びながら二足歩行で走ってきた。チェリーのようである。横に美空が居るので反応したくはないが、チェリーの表情と声から感じる限り、かなり危険な状況が差し迫っているようだった。

 千春は悩んだが、放ってはおけなかった。

「悪い、美空。急用を思い出しちまったから、ちょっと行ってくる。気を付けて帰るんだぞ」

 真剣な表情で、千春は美空に告げる。

「う、うん、分かったわ。……それじゃ、また明日ね」

 あまり見た事のない千春の表情に、美空は困惑しているようだ。

「おう、また明日な」

 そう言って走り出した千春の後ろ姿を、美空はただ見送る事しかできなかった。

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