第50話 8000円の教室
2025年3月9日。
千原達の代の卒業式。
かつての2年2組の門出だ。
2年前と同様、退屈なだけの時間。
両隣に立っている女性の先生は、ズビズビ泣いている。
俺はと言えば、淡々と式が終わるのを待つだけ。
しかし、2年前とは違うこともある。
「別に学校を卒業しても、会える奴もいるし」
と、思っていて、たかたが卒業した程度で、泣くほど感情を動かせる必要を感じられなかった。
実例として、とっくに退学した相馬とはしょっちゅう会っている。
本当に必要とする人間関係は、放ってといても会える場所が無くなったところで、縁が途切れるわけではない。
卒業式とは、人間関係の終わりではなく区切りなのだ。
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「二月先生、今までありがとうございました!」
本日23回目の別れの言葉。
他クラスの生徒達だ。別に何かした覚えはなかったが、笑顔で答える。
「ほい、またな」
軽く答えて職員室に向かう。
途中、千原にも声をかけられた。
これから、燈子さんと回らない寿司に行くらしい。何故か一緒にどうかと誘われたが、一度は不登校になった1人娘の卒業の日の親子団欒に顔を出せるほど心臓は強くないので断った。
社交辞令にしても笑えない。
燈子さんによろしくと伝えて、歩く。
今の職員室は、生徒達との別れに忙しい先生方が職員室を無人にしている可能性がある。
テスト期間中は、網走刑務所ばりのセキュリティなのに、卒業式の日は、こんなにも甘くなる。少し悪知恵が働く奴なら、この機会を見逃さないだろう。
見慣れた職員室に入る。
予想通り、教師の姿はなかった。しかし、何かの気配を感じる。
ゆっくり、確実に室内を見回す。
俺の机の下に、1人の女生徒が数学の問題集の解答欄のプリントを持っていた。
メガネをかけた黒髪ロングの、世間一般では「真面目」と評価されるであろう見た目の生徒のネクタイを見ると、1年生であることを示す青色だった。
次年度も2年を担当する俺のクラスになるかもしれない。
バレないようにため息をついてから、「どうした、とりあえず話してみ?」と言ってみた。
どうせ、本当のことは話さないだろうが、対話をしなければ、何も始まらない。
警戒心100%で俺を見る1年女子。
そう、その警戒心は大切にしておけよ。
8000円分しか、話は聞かねーからな。
8000円の教室 ガビ @adatitosimamura
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