第49話 謎解き

辞表、いつ出そうかな。


ここ最近、そんなことばかり考えていた。


自分の担当するクラスから2人も道を踏み違えるのを阻止できなかった奴が、ヘラヘラと教師を続けるわけにはいかない。

しかし、いきなり「辞めます」と言い出しづらいのが社会人だ。


これでも一応、一つのクラスを任されている立場だ。せめて、修学旅行というでかいイベントが終わってからするべきだろう。


自分ではいつも通りに振る舞っていたつもりだったが、千原と安藤に何かがおかしいと気付かれた。

しかし、まさか辞めるつもりだということまではバレなかった。


「なんで分かった?」


探偵小説の犯人のように聞いてみる。

以前、探偵っぽいことができると無駄な期待をさせてしまったお詫びだ。


「ん?そりゃ友達だから」

「・・・」


こいつは一生謎解きはできない。


「見てれば分かるよ。お前とは1番付き合い長いからな」


意外とこいつは、友達と呼べる人数はあまり多くない。


高校生の頃も、関わりがあったのは俺くらいだったし、探偵になってからも白井さん以外には、深くは関わらなかった。


カメラマンとして、生徒達と秒で打ち解けていたので、コミュニケーション能力はべらぼうに高いくせに、プライベートで発揮しようとしない。


本人いわく、「お前らがいるから別に必要ない」らしい。そりゃ白井さんも変な忠誠心見せるわ。


「なんとなく分かったよ」


なんとなく。

それで正解に辿り着くのだから、敵わない。


「二月は教師を続けるべきだ」


話が本題に戻る。


もう少しのらりくらりと逃げたかったのだが。


「そう言ってくれて嬉しいよ。でもな」

「うるせー」

「・・・」


「どうせ、いつもの屁理屈が始まるんだろ?雑談で聞く分には面白いが、せっかくの天職を手放す言い訳で使うなら、私は聞く気はない」


屁理屈。

それを取り上げられてしまったら、俺には何もないぞ。


「いいから、教師は続けろ。どうしてもあの美人の生徒に後ろめたい気持ちが拭えないなら、学校を変えてみろ」


「・・・なんで、そこまで俺に教師を続けさせようとする?」


また、「うるせー」で一刀両断されると思ったが、星田は答えてくれた。


「楽しそうだったから」


「・・・」


「高校でも、前の仕事の時でも、二月は一生懸命すぎた。普通だったらスルーしてもいいことをとことん考えちまう。こいつは若いうちに禿げるなって心配してた」


うるせー。

と言おうとしたが、流石に空気を読む。


「でも、教師2年目から、肩の力をを抜いて仕事してるのに気づいて、嬉しかったよ。ようやく、自分のために楽をするのを覚えたんだなって」


高校時代から、言われていた「自分を甘やかせ」を俺なりに実践した結果が8000円のルールだった。


「まだ、やりすぎることはあるし、自分を責める癖も治ってない。でも、生徒のことを考えると同時に自分のことも少しはケアできてる」


星田は時計を確認した。そろそろ、旅館に戻って明日のために休むべき時間だと思ったのだろう。

俺よりも俺のことを心配してくれる、最高の友達だ。


星田は、最後にこう締めた。


「焦るな焦るな」





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