第3話

「さぁ、成、こちらへおいで。成の能力について説明してあげよう」


 ばあちゃんは凄いけど、俺は魔力もないし……って話かな?


「はい……俺の魔力や能力が低いって事ですよね?」


 しかし、じいちゃんは優しく笑い


「案ずるな、成よ。確かにお前の能力はまだ低い。しかし、わしと稽古をすれば必ず強くなる。それと、その魔石だがな、実は澪の魔力や力が込められておりそれを封印しておる。それを解放する時も来たようじゃ」


「魔石の封印ですか?」


「そうじゃ。それを貸してくれるかの?」


 じいちゃんがそう言うので、ペンダントを渡す。すると、じいちゃんは何やら唱え始めた。暫くすると、ペンダントから強い光が放たれ、その光は俺の身体を包み込んだ。


 え? え? どうなってるの?


 けど、あったかい光……何だか、ばあちゃんに包まれてるような気がする……


『成、辿り着いたのね。きっとあなたは私と同じ運命を辿ると思ったわ。成、あなたに神の加護を』


 どこからか声が聞こえた。


 ばあちゃん? いや、ばあちゃんより若い声。けど、ばあちゃんなのかな?


 俺を包んでいた光が消えた。何故か涙も溢れてくる。


「お、俺、どうしたんだ?」


 振り向くと、じいちゃんが優しい目をしている。


「成功した様じゃな。さて、ステータスを見ようか。うん、MP300、強さ300かなり強くなっておるぞ。ちゃんと澪の気が入った様じゃ。これは返そう。ちゃんとこれからも大切に持っておくのじゃぞ?」


 そう言い、じいちゃんはペンダントを俺に渡した。


「ばあちゃんの? そういえばさっき声が……でも、ばあちゃんよりかなり若い声だと思うんだ」


 俺はまだ何だか不思議な出来事にふわふわしていた。


「その声は澪が地球に帰る時のものだろう。だから若くても不思議ではない。成、どうだろう? わしと共に修行し、この国を……この世界救ってはくれまいか?」


「はい! 俺も早く地球の家族の元に帰りたいので、頑張ります! 魔王デルモを倒して、絶対に家族の元へ帰ります!」


 じいちゃんは、何だかすまなそうな? 顔をしている。


「成、あのな。魔王デルモを倒さんでも地球には帰れるんじゃぞ?」


「え? 帰れるんですか?」


 俺が驚いていると、


「正確には、この国の周りの脅威のデルモゴンは倒さなくてはならないのじゃが。国に結界を張ったままじゃ、この国から外へ出すには難しいのじゃ。成を直ぐに帰してやりたいのはやまやまじゃが、成が帰るために結界を解いてしまってはこの国にデルモゴンが入ってきてしまうからの」


 そうだったんだ! 魔王デルモは倒さなくても良いんだ。けど、倒すのは脅威だし、修行はしっかりしないとだよね。


「俺、頑張ってこの国に来ようとしてる脅威デルモゴンを倒すよ! じいちゃん、修行よろしくお願いします!」


「勿論じゃ!」



 *


 次の日から修行が始まった。修行はかなりきつかったが、何とか付いていく事が出来た。弓の修行もかなりした。じいちゃんが強い弓をプレゼントしてくれたが、使いこなすのにかなり時間がかかってしまった。やっぱり、弓道とは違う……


「負けるもんか! 絶対に帰るんだ!」


 自転車も扱いにくくなっていた。まるで言うことを聞かない。意思を持っている感じさえした。けど、乗っていて攻撃が来ると結界を自動的に張るので欠かせない。じいちゃんが教えてくれた自転車と心を一つにして頑張る。


「よし! その乗り物にもだいぶ慣れたみたいだな」


 一緒に訓練をしていた、5歳年上のアゼルが認めてくれた。アゼルは戦士、とても強くそれでいて優しい。自転車を乗りこなすのも早かった。


「アゼル、ありがとう! アゼルが丁寧に教えてくれたからだよ!」


「それは元々、君の乗り物であり武器だ。素質はあったと思うよ。良く頑張ったな」


 アゼルはそう言うと、俺の頭を撫でた。


 それからも俺は、帰ることを目標に頑張った。脅威を倒して、この国の人達を助けたいのもあったが、地球に居る母と妹の事が心配でたまらない。



 *




 一ヶ月後――


 俺は少しずつ国の外に出て、弱い魔物と戦っていた。横にはじいちゃん、後は召喚士のサミーと一緒に。サミーは召喚士だが、自分が召喚した責任を感じていたのか、ずっと付いていてくれている。しかし、召喚士とはいえ、魔法も人並み以上、強かった。


「やったー!」


 俺は今日、一人で上級といわれている魔物を倒すことが出来た。


「成、良くやったな。これなら脅威にも劣らないだろう。明日からパーティーを組んでこの国の脅威、デルモゴンを倒しに行ってくれるか? 何、心配はいらない。わしが信頼している者達だ。強いパーティーだが、欠けていた所があったのだ。それは、成、お前の正確さだ」


「はいっ!」


 俺は元気良く返事をし、明日からのデルモゴンとの対戦に備えた。



 *



 次の日――


 俺は何故か、勇者扱いだった。


「何故、俺が勇者なんですかっ!? アゼルの方が強いじゃないですか!!」


「成、強さは関係ない。君は若いのにリーダーシップもある。皆、相違無いな?」


 戦士アゼルの言葉に皆、頷く。


「勿論よ、成、信頼してるわ」


 そう、魔法士のリリイ、召喚士のサミー、僧侶モルが笑顔で答える。


「成、君なら大丈夫だよ!」


 更に剣士のイカルドまで。


「まぁ、俺の方が強いは強いがな! 悔しいが、俺もお前は認めてる。成長も凄かったしな」


 イカルドにまで言われるとは思わなかった。


「ありがと! 皆、俺、頑張るよ!」


 結界の外に出ると、脅威のデルモゴンが居た。デルモゴンは空を飛んでおり、その姿はまるでドラゴンみたいだった。地上にも所謂いわゆるゴブリンみたいな魔物が複数居た。


 俺たちは手分けしながら戦った――



 *



「や、やったな……」


 苦戦はしたが、何とか脅威のデルモゴンを倒す事が出来た。僧侶のモルが皆に回復魔法をかける。


 傷が回復し、俺はじいちゃんの所に帰って来た。


 俺はやっと、帰ることが出来るんだな……


 俺は寂しい様な、ホッとした様な複雑な気持ちだった。


 じいちゃんの元に帰ると、じいちゃんは誇らしげな顔をして、


「成、国王様がお礼が言いたいと言われてな。城に招待されておるぞ」


 国王様が? 俺がお城に?


 俺は急いで城へと向かう。皆集まっていた。


「勇者成よ! よくぞ脅威、デルモゴンを倒してくれた! 国を挙げて君を讃えよう!」


 その後は宴だった。


 こんな経験はこの国に来なければ出来なかっただろう。後、大事な仲間達も……。


「成、本当に帰っちゃうの?」


 リリー、サミー、モルが寂しそうに言う。


「うん、皆の事大好きだし、ここに居たい気持ちもあるけれど、地球には大事な家族が居るんだ」


「そうだぞ! 無理に引き留めたら成に悪い! 笑顔で送り出してやろうじゃないか!」


 そう言いながら、アゼルとイカルドも涙を溜めている。


「皆、ありがとう! 俺、地球に帰っても皆の事忘れないよ!」


 俺は皆に別れを言い、自転車に乗る。


 召喚士のサミーが、空間にゲートを発生させる。


「ここを通れば帰れますよ」


 飛べ! 家族の所まで! 俺は自転車に強く念じると、自転車に羽が生え、ゲートの中に突っ込んでいく。


 約2ヶ月だったが、色々な事があった。まさか、俺が脅威のデルモゴンを倒したなんてな。


 俺は仲間との別れを惜しみつつ、やっと会える家族の事を考えながら、地球へ帰った――
















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自転車勇者は帰りたい~召喚されたら、俺でなく自転車が最強になっていた件、しかし俺も得意の弓で脅威を倒し家族の元へ必ず帰る~ 猫兎彩愛 @misausa03

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