第2話

「成様、落ち込まないで下さい。きっと、成様は元の世界に帰れますよ!」


 召喚士が必死に俺を慰めようとしてくれてるのが分かる。


「ありがとうございます。けれど、この国の脅威を倒さなければ帰れないんですよね?」


「う……」


 言葉が出てこない様だ。だよね、解決策なんて無い。俺はこれからどうなるんだろう。自転車は最強らしいけど。魔導師達も次の召喚について話してる。俺はもう、用無しって事か、酷いな……


 しかし、次の瞬間、状況は一変する。


「皆! 何を騒いでおる? 召喚が成功したのでは無いのか? 何故、魔法陣の上に召喚された方がそのままいるのだ! もてなしを忘れたのかっ!」


 ん? 誰だ? 今度も何か魔法のローブを来たおじいちゃん? みたいな人だ。けれど何故か目を離せない。何というか、オーラが凄い。


「大魔導師様っ!」


 魔導師の一人がそう叫び、皆があのおじいちゃんに頭を下げている。大魔導師というくらいだし、偉い人なんかな? とりあえず聞いてみよう。


「あの、誰ですか?」


 すると、おじいちゃんはニッコリと微笑んで、俺に優しく話してくれた。


「私は大魔導師だ。皆の先生みたいなものだよ。君だね? 召喚されたのは。ずっと、立っていて疲れただろう? ここに座ると良い」


 ふかふかの椅子に座らせてくれた。


「ありがとうございます」


 俺が椅子に座ると、魔導師の一人が


「恐れながら、大魔導師様、この者は確かに我々が召喚しました。しかし、召喚を失敗したようで、ほとんど魔力が無いのです。ですから、そんなにもてなす必要もないかと……」


 その言葉を聞いた大魔導師は怒り、


「それがどうした! 君たちは考えた事があるか? 知らない所にいきなり召喚された、この少年の気持ちは考えたのかっ! 我々の都合で召喚したんだぞ?」


「も、申し訳ございません!」


 魔導師は、慌ててこの場から去っていった。この人、凄い……。そう思い、大魔導師を見詰めてると、


「すまない、手荒な対応だった様だな。しかし、わしは召喚が失敗して君が来たとは思えん、何か理由があるはずだ。私が君の事を詳しく見るとしよう」


 大魔導師様は俺の手を左手でそっと握り、右手を俺のおでこに当てた。すると、俺の身体が淡く光出した。


「何……? これ……?」


 俺は不安が隠しきれず、大魔導師を見詰める。


「案ずることはない。わしに任せておけ」


「はい……」


 大魔導師のおじいちゃんは、優しく抱き締めてくれた。


 あったかい……な。


 暫くすると、大魔導師は俺から離れ、驚きと、そして更に優しい顔になった。何故か目も潤んでいる


「まさか、そなた……れい殿の……そうか、うむ、そうに違いない。すまぬが、名前を教えてくれるか? それと、良く顔を見せておくれ?」


 名前? あ。そっか、この大魔導師おじいちゃんには名前言ってなかったっけ。


「大魔導師様、の名前は夕詩矢 成です。あ! 勇者じゃないですよ? 名前がです」


「分かっておる。ああ、誰かが勇者と勘違いをしたのだな。話が反れたが、君は夕詩矢ゆうしや れいという人を知っているか?」


 何でこの人、ばあちゃんの名前知ってるんだ?


「夕詩矢 澪は祖母の名前ですが」


「そうか、関わりがあるとは思っていたが、君は澪の孫か。成程、良く似てる訳だ。そのペンダントも澪殿の物だろう? 澪殿は元気か?」


 懐かしそうにしてる? 言いにくいな。


「あの、祖母は3年前に亡くなりました。このペンダントは祖母の形見です。祖母を知ってるんですか?」


「そうか……澪殿、亡くなったのじゃな。澪殿は約60年前に我々が召喚したんじゃ。澪殿が20の時だ。その時も脅威がな。今みたいな魔王はおらんかったが、人々が危機に晒されておった。澪殿も最初は魔力こそ無かったが、優秀な戦士での、皆の為に戦ってくれたのじゃ」


 ばあちゃんもココに来てたの? ばあちゃんが戦士っ? 嘘……あんな穏やかなばあちゃんが……戦士……


「祖母もココに来てたなんて……優秀な戦士だったとか、何だか信じられません」


「信じられないのも無理はないな。しかし、証拠はあるぞ? そのペンダントの石の裏を見てみよ。この国の刻印が彫ってある。わしのこの杖と同じのがな」


 俺はそっと、ペンダントを裏返して石の裏を見てみる。確かに何か彫られているみたいだ。大魔導師の杖と同じ刻印だ。


「ほんとだ、同じですね。祖母は僕にこれを『何かピンチの時はこれが護ってくれるからね。御守りだよ』って渡してくれました」


「そうか。それは澪殿に渡した魔石じゃ。やはり、君がココに召喚されたのは偶然じゃないようじゃな。それと、君の能力で弓使いがあるみたいだ。弓が得意なのか?」


 弓……そうだ! 色々あって忘れかけてたけど、俺は弓道部の副部長だった。来年には部長になる予定だし、全国大会でも優勝してる。俺の特技中の特技だ!


「弓は得意です! 弓と言っても弓道ですが。狙った的を射貫く自信はあります!」


「おお! そうか! では君は……いや、は、弓を極めると良い。後、魔法はわしが面倒を見よう!」


 大魔導師がそう言うと、周りに居た魔導師達がざわつきだした。


「何と、大魔導師様が自ら?」


「今、伝説の戦士澪と言わなかったか?」


 一人の魔導師が俺にゆっくり近付いてくる。さっき、こいつ呼ばわりした奴だ。


「成様とおっしゃいましたかな? 先程は大変失礼を。どうでしょう、大魔導師様? わたくしが彼の面倒を見るというのは? 大魔導師様が自ら見られる必要はありません。私にお任せ下さいませ」


 何だ? また、態度を変えてきやがった。こいつはまた裏切りそうだ。俺は大魔導師を見詰め、首を横に振り目で訴える。


「ええい、黙れ! 成が怯えておるでないか! 先程までの無礼を忘れたわけではあるまい。成、心配しなくともこのじいが面倒をみましょうぞ」


 大魔導師は、言い寄ってきた魔法師を一括し、俺には優しく言ってくれた。


 さっきまで不安だったけれど、ばあちゃんの事も知ってるし、大魔導師様を信じる事にした。


「ありがとうございます、大魔導師様。俺、頑張ります!」


「うむ。それとな、わしの事は大魔導師様と、呼ばなくて良いぞ。澪の孫だしな、じいちゃんで良いぞ。わしにとっても孫みたいなもんじゃ」


 じいちゃんは、言いながら少し照れてる。


「分かりました! じいちゃん!」


 俺が元気良くそう言うと、じいちゃんは、ふぉふぉふぉと笑いながら俺を魔法陣の部屋から連れ出し、自分の部屋に招き入れてくれた。

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