最大にして最高の魅力は喫茶店という「場所」!

 町の片隅に『喫茶もかもか』という喫茶店がある。営業時間は変則的な17時から25時。加えて一見民家のようで、普段なら見落としてしまうだろう店なのだが——感じの良い青年店主と毛玉さながらな小型犬が待っていて。来店した人々をあたたかく、やさしく迎えてくれるのだ。

 訪れるお客さんは皆なんとない不調や不幸を抱えた人たちで、彼らはこのお店で癒やされたり元気をもらったりするわけなのですが……それに店主さんや犬のもかもかさんが直接関与しないところが肝なのですよ。彼らが提供してくれるものは、ゆったりとした時間。その中でお客さんは自分自身と向き合い、踏み出していく力を取り戻すのです。

 喫茶店は燃料を補給する場所でなく、時間を過ごす場所。その「場所」が舞台というだけでなく主役として機能しているからこそのドラマが本作にはあるのです。喫茶店ものは世に多々存在しますが、本作は希有でありながら王道中の王道であると申せましょう。

 読後、ふわっと心が軽くなる素敵なお話です。


(「喫茶店へ行こう」4選/文=高橋 剛)