03 静寂
「判断を間違えました。あの色は何と言えばいいのでしょうか」
虹と比べると色数が少ないが、異なる色が重なりあっている。混じり合う色は少女の記録にはないものだ。
「何て言えばいいんだろうなぁ、ファズール?」
サングラスの奥に潜む色を知る一人は軽やかに煽った。細められた夜の瞳は面白そうに煌めいている。
知らねぇよと悪態をついたファズールは視界から二人を外した。
喉の奥で笑ったディムは少女に着替えをするように促す。何も話さないながらも、素直に従っているようだ。隠す所がないにも構わず、服を身に付けていく。
背を向けて小さな体躯を隠したディムも苦笑を隠さなかった。人間らしい感情は少女は持ち合わせていないらしい。
着替え終えた少女の健康状態を確認したディムはファズールの頭を力いっぱいに撫でた。
「問題ないだろう。帰ろう」
不満がありありと見える表情を崩さないファズールは何も言わず、ドローンを起動した。
焦点の合わない目で眺める少女を見かねてディムが彼女にケースを投げてよこす。
「机にある石以外はそれにしまってくれ」
少女が手元を見下ろしたのは一瞬のことで、すぐに作業に取りかかり始めた。
横目で眺めていたファズールは我関せずを通すことにした。謎ばかりではあるが、従順な性格なら放っておいて大丈夫だろう。自分が再起動させたにも関わらず、全ての責任を取れるかと言われたそこまで決意は固まっていなかった。起動させたのは事故で、連れていくと決めたのは後味が悪いからだ。
ディムの口から片付けの傍ら保護区に帰る旨を伝え、着いてくるかと訊ねると少女は初めから決まってきたように頷く。支度を済ませた一行は帰路についた。
暗闇の世界で熱を失った白い砂の上を進む。
すぐに方角を狂わされる大地へと成り果てた場所ではドローンが命綱だ。通ってきた道筋を的確に案内する。
言葉は何も口にせず、踏みしめる音さえも砂に吸い込まれる世界をひたすら歩く。
小高い丘の頂で少女が足を止めた。
風の音も、生命の息すらも感じない場所で立ち尽くす姿は、まっさらな瞳に全方位に広がる白さを焼き付けているようだ。いぶかしむ二人も目に入らない様子で、一心に眺める。
寒気すら感じる静寂を乱すようディムが歩を進めても、頑なに少女は立ち続けた。
「何かあったのか」
なにも、と小さな唇が言葉をこぼした。暗闇に落ちた言葉がとつとつと続く。
「何もかも、なくなったんですね」
「世界の九割以上は
淡く微笑んだディムはなぐさめるように音を紡いだ。心もとない感情は彼自身も覚えがある。
「
「生命活動していないものは全て分解される現象だ」
二年前に展開された大賢者の術式は文字通り世界を変えた。
世界は暗闇と白い砂ばかりに塗り替えられた。白い砂は命が分解された灰なのだ。
星屑のアルカディア かこ @kac0
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