第167話 特別編⑤ きっといい王様になるぜ、あんた
「おお、いいじゃないか。減ってる減ってる!」
クィンたちが、各工房の安全を管理するようになってから数ヶ月。
国内の事故件数は、目に見えて減少していた。
あれから
「さすがクィンさんたちです。プロの仕事です」
クィンたちの働きも大きい。
各工房を回って、安全意識の教育はもちろん、それぞれが抱える危険をひとつひとつ是正させていったのだ。
他にも作業員に装備させるべき、安全用具の提案もあった。
例えば、兜――というほど頑丈ではないが、簡易な作りの頭部を保護する被り物であったり、飛散物や有害な煙から目を守る特殊な形状のメガネとか。
おれたちは、そういった安全装備の開発にも着手して、国内に流通させつつある。
また、スートリア神聖国をはじめ、同様の技術を使っている国々にも、これらの情報を共有して、安全性を高めるよう提言もした。
おれたちとしては、自分たちが作った物に対して責任を取っているつもりだったのだが、国王や有力貴族たちからは評価されていた。
そんな折、おれたちのもとへクィンがやってきた。
おれの立場を聞いて、ぽかーん、としてしまう。
「あんた、マジで王族だったのな……」
「ただの成り上がり者だよ。それで、今日はどうしたんだい?」
「いやその、仕事のほうがちょうど一区切りついたところでよ。挨拶しようと思ったら、なんか王宮に通されて、わけわかんないうちにここにいたっていうか……」
「ごめん。ちゃんと教えておくべきだったね」
「いや、いいんだ。っていうか、謝るのはあーしのほうっていうか……。うん、王族なら代表として受け取ってくれるよな」
クィンは椅子から降りて、這いつくばるように頭を床に押し付けた。
「申し訳なかった!」
いきなりそんなことをされて、おれは慌ててしまう。
ソフィアがクィンの肩に手を添える。
「クィンさん、頭を上げてください」
「いや! これはちゃんと詫びなきゃならねえ! っていうか、あんたら、あーしらが盗賊だって知ってて、どうして捕まえようとしなかったんだよ!」
「それは……」
「いや、いい。もう知ってる。あーしらに同情してくれてたんだろ。ノエルが庇ってくれてたって。あのアリシアって領主も、どうにかできないかって考えてくれてたんだろ。それで仕事を作ってくれた……」
「でもクィン、それは君たちがおれたちの頼みを聞いてくれたからだ。そうでなかったら、もっと違う結末になってたよ」
「それでも機会をくれたじゃねえかよ。おまけに、あーしらを騙したあの詐欺師野郎まで捕まえてくれたそうじゃねえか! なんで黙ってたんだよ!」
「君たちのためだけじゃない。同じような被害に遭う人を増やさないためだ」
「……これ、納めてくれよ」
クィンは神妙な顔で、荷物から大きな金貨袋を取り出した。ずっしりと、かなり重い。
「あーしらが盗んじまったのがどれくらいだか、もうわからねえけど……それだけあればきっと足りるだろ。みんなに返してやってくれよ」
「わかった。約束する」
「けど返したからって罪は消えねえよな。あーしも、仲間たちも、処罰は受けなきゃいけねえと思ってる。このままじゃ、胸を張って生きられねえからよ!」
クィンはとつとつと語りだす。
「あーしが見てやった工房では、職人から感謝はされるんだけどよ……それより、その家族から、もっとたくさんありがとうって言われちまってよ……。これまで、家族がいつ怪我するかわからなくて不安だったのが、今はもう安心だからってよ……」
「……いいことじゃないか」
「ちっともよくねえ! あいつらは、あーしらがなにやってたか知らないんだ。もしかしたら、あーしが盗んだ家の人間かもしれねえ。こんなんじゃ、どんなに仕事で稼いだって幸せにはなれねえよ……」
「わかったよ。ならアリシアに伝えておく。君たちを処罰するように」
「ああ……」
「でも実は、もうアリシアとも話はついてるんだ。罰についても決めてる」
「どんな罰だ?」
「なんてことはない。罰金刑だよ」
「そりゃ軽すぎるだろ。労役のあとの強制送還が妥当じゃねえのか」
「そうかな。もともと情状酌量の余地はあったし、君たちに今から抜けられるのもきついし。それに言っとくけど、かなり高額だからね。軽いなんて考えないほうがいい」
金額を提示すると、クィンは唸った。罰として納得できる額だったのだろう。
「へ、へへっ、罰を喰らって言うのもなんだけどよ……ありがとうよ。これで少しは胸がすっきりした。じゃあ、邪魔したな」
「ちょっと待ってくれ」
立ち上がって帰ろうとするクィンを呼び止める。
「ありがとうなら、おれたちからも言わせてくれ。君たちのお陰で、たくさんの人が危険から解放される。おれたちだけじゃ、きっとできなかったことだ。本当にありがとう」
「あーしらは、頼まれた仕事をこなしただけだよ」
続いてソフィアも口を開く。
「今後、なにか新しい物を作るときには、またご相談させてください。クィンさんの意見は鋭くて、とても興味深いですから」
「……そんなことでいいなら、いつでも」
「いいえ、そんなことではありません。大変重要なお仕事です。相談料はたくさん弾みます。罰金なんて、すぐ払えてしまえるくらいに……」
クィンはソフィアを見上げた。
ソフィアが微笑む。おれも笑みを向ける。クィンは苦笑した。
「あんたら……」
なにか言いかけて、クィンは首を小さく横に振った。
「ありがとよ。きっといい王様になるぜ、あんた」
去っていくクィンの背中は、小人族らしく小さかったが、頼れる仲間の背中でもあった。
彼女を加え、おれたちはまたどんな物を作り出せるだろうか。
胸が高鳴り、またわくわくが溢れ出してくる。
ふと、これだな、と思った。
国中の――いや世界中のみんなを仲間にして、こんなわくわくを共有する。
そんな王様になれたらいい。
そう伝えると、ソフィアはとても嬉しそうに笑ってくれた。
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特別編、お楽しみいただけましたら幸いです!
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S級クラフトスキルを盗られた上にパーティから追放されたけど、実はスキルがなくても生産力最強なので追放仲間の美少女たちと工房やります 内田ヨシキ @enjoy_creation
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