第5話 皇帝
宮女らしく立って待っていた。随分と長く待った気がした。静寂は私の鼓動を余りにも大きく響かせる。深く深呼吸しようとした時、遠くから足音が近づいてくるのが聞こえた。
皇帝陛下だ。名前も忘れたけど、皇帝陛下だ。
陛下が扉を開ける前に、私は傅いた。
「君は
私は顔を上げ、陛下を見つめる。
「ではないね?」
ああ、良かった。
初めて見るこの国を統べる皇帝陛下は、黒髪を後ろで一つに束ね、長い前髪を顔の横に垂らしている。蝋燭の光に映し出される端正な顔だち、ツンと通った鼻に形の良い唇。憂いを帯びた優しげな瞳と強い意志を感じるまっすぐな眉。シンプルな服装に細くとも精悍な筋肉がひきたつ。こんなに美しい男性を見たことは今までにない。
しかし見惚れている暇などない。機嫌を損ねたら首が飛ぶかもしれない。
「はい、新しく入りました宮女の
「そうか、良く似ているね」
「
皇帝陛下は少し考え込んだ。すぐに
「そなた、姓はなんという?」
「
「いや、違う姓があるだろう。父か母か分からないがもう一つの姓の方だ」
「母方は
目を伏せて震えながら傅く私の頭から、皇帝は
「いかにも、
皇帝は私の顎をひき、顔を上げさせる。
「さすれば、そなたは
戦禍を逃れた
皇帝陛下は口を開く。私が待っていた質問だ。
「して、
本当は「ここにはおりませぬ」と答えるつもりだった。実際「どこにいるかも知りませぬ」と答えるのは嘘ではないからだ。
でも、皇帝陛下と話してみると、不思議とこの方のお役に立ちたいという気持ちが湧いてくる。これは皇帝の力なのだろうか、それとも天性の魅力なのだろうか。ええい、ままよ。私は正直に答えることにした。首を刎ねられても仕方はない。
「
皇帝の反応が怖かった。幼馴染とはいえ、花嫁を盗まれたのである。しかし、その反応は意外なものだった。
「それは良くやったな!ぜひ脱走劇を見たかったぞ」
皇帝は少年のような顔で愉快そうに笑い飛ばす。
「計画がうまくいくか心配しておったのだ。輿入りを口実に家を抜け出して駆け落ちさせる。いやあ、
そして、私を引き寄せた。
「そなたが通りがかったのもきっと偶然ではない。僥倖、天啓、運命だろうよ。
皇帝はさも当たり前かのように私に口づけをする。
「
あれ?
【第一部 完】
後宮物語〜身代わり宮女は皇帝に溺愛されます!?〜 菰野るり @ruri_komono
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