第4話 賭け
後宮に入って一刻も過ぎないうちに逃げなければならないとは全く予定外だった。宦官の満面の笑みを思い出すとイライラする。しかし、文句を言っても解決しない。私は絹の高床に横たわりながら、脱出方法を考えていた。
1番難しい関門は外壁である。高い塀に深い堀。完璧に通行証で管理されている橋。散歩と称して塀に近づくことができても、今の装備では功夫の使い手か仙人でなければ越えることすら叶わない絶壁である。どうにか塀に登れても、その後は堀にポチャン!堀から外へ逃れる前に衛兵が来るだろう。なんてったって今は真昼間なのだ。しかし夕刻には
それでは反対の
牡丹坊は静まり返っていた。既に後宮には千人単位で国内外から女性が集められていると聞くが、ここには他の女の気配すらない。牡丹坊のどこに隠れても見つかっちゃうわ。刺客が潜まないように徹底的に考えぬかれている邸なのだ。
木を隠すなら森に隠せ。
一瞬の閃きだった。まだ後宮は集められたばかりだから互いの顔を知らぬ者ばかり。私は後宮から逃げ出す必要はない。宮女になりすまして、まずは今夜をやり過ごす。そして後宮からの脱出方法は今夜の命を繋いでから、また考えれば良いのだ。
閃くが早いか衣装を探す。出来るだけ地味で、
私は覚悟を決めた。これは賭けだ。私の命をかけた絶対に外せない賭けだ。皇帝は
夕刻には約束通り
私はとびきり我儘なお嬢さまを演じることにした。
「わたくし、そんな服は嫌ですわ」
尚服たちが広げている、気が遠くなるほどの細かい刺繍が施された薄い絹の服を下げさせる。正直言って、そんな透けた服を着るのは本当に嫌だった。
「やめて頂戴!そんな髪型嫌いですわ!」
高く髪を結いあげて、煌びやかな宝石の櫛や簪をさそうとする幾多の手を振り解く。頭にゴテゴテつけるのはうざったくて本当に嫌だったから、演技力を必要としなかった。
「香を焚かないでちょうだい。気分が悪くなりますの!」
あれやこれや、ひたすら文句をつけてゆき完成したのは完璧な宮女スタイルである。
私は皆を納得させる一言を考えてあった。
「わたくし、陛下とは幼馴染ですの!陛下のお好みは1番存じ上げてましてよ」
部屋中に安堵が広がる。
「
それもそうね、と私は母の
もう夜の帳が下りていた。
「陛下が来る前に皆さん下がっていただける?部屋の前も駄目よ。邸から全員出て行ってほしいわ。私だけの殿下を誰にもみせたくないから」
我ながらめちゃくちゃなことを言っている。皇帝のお通りというのは蚊帳の外で宮女が見守っているものなのだ。今回の計画には絶対出てってもらわなければならないし、普通に皆が私たちを囲んでるなんて計画関係なしに絶対に嫌だった。
「
そして牡丹坊には静寂と闇だけが訪れる。不安定な蝋燭の光だけが揺らめいていた。
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