第48話 大切な人


 夕方、深月みつきたちが守矢神社に帰って来ると、社殿の脇に背の高い人影が二つ見えた。ほうきを持った安田と、もう一人はアマミだ。

 石段を上った所で深月が立ち止まると、アマミが気づいて走って来た。


「よ、お帰り! 親父さんとの話し合いはどうだった?」

「うん、円満解決した。ちゃんと話せてよかった。お父さんの気持ち、少しわかったから」


 彼は、自分の娘のことを忘れていた訳でも、嫌っていた訳でもない。ただ、すこしだけ恐れていたのだ。


「そっか、よかったな」


 アマミは満面の笑みを浮かべて、深月の頭をクシャッとなでる。

 そのすぐ後ろを、安田が「じゃあな」と言って通り過ぎ、階段を降りてゆく。いつもながら素っ気ない彼に、深月は「お疲れ」と声をかけた。


「そういえば、アマミは安田と仲直りしたの?」

「まあな。つーか、あいつ本当に変わったよな。二学期から夜間高校に通うんだって?」

「そうらしいね。昼間はバイトするから、ここのボランティアも終わりだって。ふくちゃんが残念がってたよ」

「時々は来るってさ。そんなに手が足りないなら、俺も手伝ってやろうか?」

「えっ、いいよ。これからはあたしが手伝うしさ」


 深月が神社の石段に座り込むと、アマミも隣に座った。

 西の空に夕日が沈んでゆく。


「おまえ、おばあちゃんの家はどうすんの?」

「そのままにしといて、時々そうじに行く。ここにお世話になるのは高校卒業までで、大学生になったら戻るつもりだからさ」

「そっか。でも、深月が大学生になった姿なんか想像できないなぁ」


 笑いをこらえるアマミを見て、深月はふくれた。


「どうせチビだよ。でも、アマミと最初に会った頃から五センチも伸びたんだよ!」

「へぇー、気がつかなかった」

「うざっ」

「それよりさ、他所よその家族と一緒に住むって気を遣うだろ。大丈夫なのか? 慣れるまで、毎日来てやろうか?」

「もうだいぶ慣れたから大丈夫だよ。それに、アマミは部活あるでしょ?」

「お気楽な同好会だから、参加も自由なんだ」

「えっ、部に昇格できるんじゃなかったの?」


 深月がそう言うと、アマミの顔から急に笑顔が消えた。


「あの話は断った。北川は、俺らとは見てるものが違うんだ。ガンガン試合出て上を目指したい気持ちはわかるけど、俺の膝はもう無理なんだ……だからフットサル同好会に入ったのにさ」

「そっか……膝を故障したんだってね。前にサッカー部らしい人たち見て、羨ましいって言ってたよね」

「よく覚えてるな?」

「そりゃぁね。アマミはあたしの最初の友達だもん。特に、幽霊だった時のことは忘れないよ」

「最初の友達かぁ……」


 アマミが不満そうな声を出した。腕組みをしてため息なんかついている。


「何よ?」

「いや、別に何でもないよ」


 そう言って立ち上がったアマミが、深月に向かって手を差し伸べる。

 深月が手を伸ばすと、アマミがつかんで引っ張り上げてくれた。


「一応言っとくけどさ、俺の一番は深月だからな」

「えっ、それ、どういう意味?」

「それくらい、自分で考えろ」


 手を繋いだまま、アマミが歩き出す。

 深月はアマミに引っぱられる格好で歩き出したが、頭がふわふわして雲の上を歩いているような心地だった。


(一番……て、何だろう? 一番好きな友達? 一番、好きな人?)


 顔がカッと熱くなった。


『深月ちゃんのそれは、恋じゃないの?』


 いつだったか、夕夏にそう訊かれた。あの時は違うと答えたけれど、今の気持ちはよくわからない。


 深月は、暗くなった空を振り仰いだ。

 藍色の空にはうっすらと星が見えている。

 頭に浮かんだのは、星空のような模様を海底の砂に描く、アマミホシゾラフグの姿だった。


                  おわり



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アマミと深月 滝野れお @reo-takino

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