今日のホームルームは『ですゲーム』です。
土岐三郎頼芸(ときさぶろうよりのり)
全1話完結
「今日のホームルームは『ですゲーム』です」
これが担任のGトウ先生のホームルーム始まって最初の言葉です。
「最近、皆さんの言葉遣いが非常に乱れているという苦情が多いんですね。そこで、丁寧な日本語を話す練習としての『ですゲーム』です」
「それってなんなんですか?」
私も思わず言ってしまったんです。
「ルールは簡単です。会話のときの語尾の方にちゃんと『です』を使うだけです。そうすればセーフです。なお、指名されて10秒以上沈黙を続けた場合もアウトです」
「け、バカバカしい、やってられっかよ」
不良のOザキくんがそう言って立ち上がったときのことです。教室の床に真っ黒な穴が開いたと思うとOザキくんの姿を飲み込んだのです。
「あああああああああああっっ!!!」
Oザキくんは絶叫だけ残して教室から消滅して教室はパニックになったのです。
「いいから静かにするのが先です」
そう言って先生は手をパンパンとならしたんです。
「ふう、残念ですね。コレは『ですゲーム』ですよ。ちゃんと話は最後まで聞いてほしいものです。今のは例です。語尾の方にちゃんと『です』を使わない発話は不適切な会話なのでアウトです」
先生はため息を吐きながら強調したものです。
「君たちは勘違いしているようですが、これは教育の一環です。ゲームとはいえもっと真剣に取り組み、発言には細心の注意を払うべきです」
「Oザキ君をどこにやったんですか!」
学級委員のAサダさんが強い口調で質問するのですが担任は涼しい顔です。
「良い質問ですね。特別に5ポイントです。ルールを破ってアウトになった人にはペナルティがあるのは当然です。行先はとても怖いところです」
「ポイントというのはどういう意味ですか?」
優等生のTヅカ君も質問です。
「これも良い質問です。3ポイントです。良い発言はポイント加点の対象です。そして、みんなで力を合わせて20ポイント分消費すれば、いなくなった仲間を一人召還して復活できるんです。さあ、ほかに質問がある人はいないんですか?」
「先生を物理的に倒したら、Oザキも帰ってきてこの馬鹿げたゲームを終わらせることができるんですか」
これは柔道部のNムラ君の発言です。
「微妙な質問ですね。1ポイントです。現在のわたしはこの世界の管理者権限移譲のおかげで物理攻撃は無効です」
「先生もこの『ですゲーム』に参加中というですか?」
さすがTヅカくん、グッドジョブです。
「そうです。わたしも参加者です。3ポイントです。この『ですゲーム』でわたしを負かせばゲームも終了です。そして、いなくなった生徒も復活です」
なるほど、そういうことですか。これは相当慎重にならざるを得ないと言う事ですね。ではこの手はどうです?
「先生、トイレに行きたいです!」
残念です。わたしが今思いついたことと同じことをわたしよりも早く口にした人がいたんです。要領よくサボるのが上手なEトウさんです。
「あ、わたしも」「おれも」
バカですよ! それじゃ黒い穴に飲み込まれちゃうじゃないですか!
「「ああああああああ」」
ほら、やっぱり二人とも没シュートになっちゃったです。みんなはすっかり静かになって口をつぐんだままです。
クラスのみんなもようやく余計なことを言わない方がいいと気づいたようですね。
「残念ながら、不許可です。0ポイントです。安易ですね。この教室は現在閉鎖空間になっていますから脱出も不可能です」
「どうしてもダメですか」
「ダメです」
「先生はケチですね」
「余計なお世話です。まあ、努力点で1ポイントです」
Eトウさんは諦めて着席です。さあ困ったですね。自分一人で脱出するのはどうやら無理そうです。となれば、担任に「です」がつかない言葉を喋らせるしかないですね。
「先生は、恋人がいるんですか?」
おお、これは美術部のSズキ君の攻撃(?)です。
「それは今のゲームとは関係がないプライバシーについての質問ですよ。0ポイントです」
「プライバシーについて聞いてはいけないというルールはなかったですよね」
「たしかにそうです。でもその質問は一般常識としてよくないです。まあ、君の勇気に免じて1ポイントです」
これでとりあえず合計14ポイントです。
「結局はどっちなんですか?」
「しつこいですね。0ポイントです」
「答えないのはずるいと思います」
そうSズキ君が口にした途端、彼の足元に真っ黒な穴が開いたと思うとSズキくんの姿を飲み込んだのです。
「先生、どうしてですか! Sズキ君は丁寧に話していたじゃないですか!」
これにはわたしも猛抗議です。
「いい質問なので3ポイントです。Yマダさん、これは『ですゲーム』ですよ。『ますゲーム』じゃあないんです」
「そんな、ひどい・・・・・・です」
今のはちょっと危なかったです。でもこれはわたしの予想通りです。
これで17ポイントです。ポイントを貯めてクラスメイトを復活させるのにもまだ少し足りないです。
「もう質問はないんですか。なければこちらからの質問の番ですよ」
とりあえず何を聞かれても「考え中です」と答えておけば負けはないですが、それでは先生を追い詰められず、勝ちもないですから面白くないです。
捕獲して「です」がいえなくなるほどくすぐるという手もありますが、先生には「物理攻撃無効」があるんですよね。くすぐりも効かない可能性が高いです。
さっき、スマホを使ってわたしの仕掛けは終わったのですが、発動の時間まであと1分ほどです。もう時間もないので早速作戦開始です。
「先生、今日は早退したいです」
「どういうことですか?」
「入院している祖母のお見舞いに行きたいのです。面会時間が限られているんです」
みんなが呆気にとられているようです。なんでこんな時に、のんきにそんな話をするのかって顔ですね。でもおばあちゃんの見舞いも大切なことですよ。
「それは、仕方がないですね。では午前の授業が終わってからの早退でいいですね」
「はい、もちろんです。許可していただいて嬉しいです」
そう言って、私は着席したのですが、先生は何か言いたそうです。ちょっと失礼ですからね。
普通ならお礼を言うところですが、まだゲーム中です。うっかり「ありがとうございます」と言ってしまうと没シュートです。
ジャジャジャジャーン!
みんなびっくりですが、わたしの着メロはベートーベンの『運命』です。いいじゃないですか、私の趣味です。
出てみれば、やはり姉からです。
(アイちゃん、早退の件どうだった?)
「姉さん、大丈夫です。Gトウ先生が午後から早退OKですって」
(そう、よかった。お礼を言いたいから先生に代わってちょうだい)
「いいですよ。先生、わたしの早退の件で姉から電話です」
先生にスマホを渡すとき、さりげなくスピーカー通話に切り替えみんなにも聞こえるようにしておきましたので、どうなるか見ものです。
「はい、アイさんの担任のGトウです」
「Good morning. I’m Maria, Ai’s sister. Thank you for your kindness. We are happy to visit our Grandma this afternoon. Excuse me, are you Mr. GTo?」
姉からいきなり英語でまくしたてられて先生もビックリです。
「イエース、アイアム。アイアムGトウ。アイズ、ティーチャー」
ぷぷっ、先生は思いっきりカタカナ英語です。でもちゃんと英語で答えようとするのは偉いです。さすがは先生です。
甘かったですね。
「ああああああっ!」
つい英語で受け答えして「です」を使わなかった先生が没シュートで、わたしの勝ちです。
今日のホームルームは『ですゲーム』です。 土岐三郎頼芸(ときさぶろうよりのり) @TokiYorinori
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
同じコレクションの次の小説
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます