番外編① 香屋の休日
皆様、こんにちは。『
本日は
お休みと申しましても、すべき事はたくさんございます。
この日、
※
「香織?準備はよろしいかしら?」
「はい!」
「全てが勉強よ?……心して掛かるように」
「は、はい!」
香織は真剣な
しかし始まるや否や、瞳を
「だ……だめ……。やっぱり緊張しちゃう……」
「大丈夫。怖くないわ?……最初は丁寧に……」
「あ……あん!」
「ちゃんと良く見なきゃ駄目。ほら……綺麗な色をしてるわ?」
「お……お姉ちゃん。怖い。……私、怖いよ」
「最初が肝心なの……ほら、良く見て?」
「フワフワしちゃう。すごい……混ざってる」
荒ぶる
「ここは一定のリズムを崩さないでね?……そう。上手よ?」
「うぅぅ……変な感じ。泣いちゃいそうだよぉ……」
「もう……可愛いんだから。こっちは少し大きめに……」
「んん!……大きいよぉ。少し休ませてぇ……」
まだまだこれからでございます。私は香織を休ませるつもりはございません。
「最後まで集中しなきゃ駄目……ここからが本番よ?」
「熱い……熱いよ、お姉ちゃん!……あぁ……入ってる……」
「トロトロになってるわ?……ゆっくり掻き混ぜてあげる……ほら、ちゃんと奥まで……」
「すごい……すごいよ、お姉ちゃん。私、何だか
「香織!?」
「はぁぁぁぁぁぁぁぁん……」
香織は失神してその場にへたり込んでしまいました。
私は、荒く息をする彼女を
「頑張ったわね……。あとはゆっくり、寝かせてあげないとね……」
※
「いっただっきまぁす!」
その日の夕食時、私は意識を取り戻した香織と共に食卓を囲んでおりました。
彼女はスプーンを口に運ぶと、輝く瞳で感嘆の声を漏らしました。
「はぁぁぁ……。美味しぃぃぃ……。やっぱりお姉ちゃんのカレー食べたら、
「うん……上手に出来てるわね。香織、頑張ったものね?」
香織は頬に手をあててカレーの風味に
「でもスパイスの種類は多くて間違えないか緊張しちゃうし、タマネギは目に
「美味しいものを食べて、また一週間頑張らないとね。自身が充実しなければお客様に満足して頂けるお仕事は出来ないわ?」
「でもお姉ちゃんは凄い嗅覚持ってるのに大好物がカレーだなんて、何か今でも意外だなぁ。私なんかスパイスの香気が凄すぎて立ってらんないよぉ。あそこまでしないとこの味は出せないの?」
実は
お香とカレーがあれば他には何もいらないと言っても過言ではありません。
「そもそも私達が今日作ったのはカレーではないの……。これは……そう……宇宙。……私達は今日、宇宙を創造したのよ?」
「は……はい?」
香織は言葉を失いました。
構いません。私は
「ガラムマサラ、ターメリック、クミン、コリアンダー、サフラン、クローブ、ハッカク……。宇宙を構成する元素を挙げれば枚挙に暇がないわ?ペッパーだけでもチリ、ホワイト、ブラック、カイエン……とても数え切れない。どれだけ宇宙の真理を追い求めても、私達は未だにその黄金比の一端にすら辿り着けないでいるの……」
「あ、あぁ……はい」
香織は口元をひきつらせておりました。
……無視にございます。
「いつか本当の黄金比に辿り着いた時、私達はお鍋の中に本物のビッグバンを
おや……?……コ、コホンコホン……。
大変失礼致しました。私ったらもう……。
カレーのことになると、つい
香織にはまだ難しいお話だったのでしょう。
愛想笑いを浮かべながら食事を続けておりました。
「で、でも私もたくさんお姉ちゃんの味付け学びたいなぁ……。美味しいのは本当に間違いないんだもん」
優しい子にございます。
そう言って美味しそうに食べてくれる彼女の笑顔に、私も温もりを貰い、とても嬉しくなるのです。
「うふふ……ありがとう、香織」
「今度はさ、カツカレーなんかにしてもいいよねぇ……」
しかし
私はその一言に髪が
「カツ……ですって?」
「へ?」
香織は
「香織?……今、何と?……カツ?……カツですって?カレーの上に何かを乗せるなど言語道断!よろしいこと香織?……カレーの結婚相手はお米と決まっているの!百歩譲って親戚になれるのは福神漬だけなの!カレーの上に何かを乗せるだなんて結婚詐欺と同義だわ!宇宙の中のブラックホールでしかない!……
「い、いや……そんなつもりじゃ……」
「いいえ許しません。香織……今日は覚悟なさい。
「ふぇ!……い、いやぁぁぁぁぁん!」
こうして、今日も
皆様、
また来週も、皆様とお会い出来ることを楽しみにしております。
『香司』 美結
『香司』 美結 キボウノコトリ @kibounokotori
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